世界最高の人馬によるレースを日本で行う――後藤正幸(日本中央競馬会理事長)【佐藤優の頂上対決】
一時は無観客開催にしながらも休むことなくレースを続け、コロナ禍の中でも売り上げを伸ばした日本中央競馬会。その背景には、家で競馬が楽しめる環境を用意し、馬券購入でも多様な方法を導入するなど工夫があった。いまや日本は世界的な「競馬大国」となったが、それを維持していくには何が必要か。
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佐藤 日本中央競馬会(JRA)は、コロナ禍の中でも毎週競馬を続け、売り上げも伸びたそうですね。
後藤 はい、大変ありがたいことです。一昨年1月、ダイヤモンド・プリンセス号で集団感染が発生してから、あらゆる娯楽が消えていきました。プロ野球はキャンプができなくなって開幕が遅れ、サッカーのJリーグも休まざるを得なくなった。またディズニーランドなどテーマパークは軒並み休園し、さまざまなコンサート、公演も中止になりました。その中で私どもは、何とか休むことなく、毎週、競馬を行うことができました。
佐藤 当時は、いまから見れば感染者は多くありませんが、状況は相当に緊迫していました。
後藤 ですので、私どもも2020年2月29日から約7カ月間は無観客で開催しました。それでも参加してくださるお客様が増えました。
佐藤 いま、年間にどのくらいレースが行われているのですか。
後藤 週末を中心に年間288日です。1日12レースを行いますから、1年で3456レースになります。
佐藤 それがすべて行われたのですね。
後藤 常時4千頭くらいの馬がJRAの施設内の厩舎にいて、1レースには平均14頭の馬が出ます。その馬の世話をする厩務員、調教をする調教師や調教助手、レースで騎乗する騎手など、競馬のレースには多くの人間が携わっており、彼らがそれぞれ健康に気を配り、集団感染を起こすことなく、競馬事業を続ける環境を維持してくれました。
佐藤 娯楽が消えた中で毎週開催された競馬は、エンターテインメントとしての存在感が増しましたね。
後藤 やはり家の中で競馬を楽しむ人が増えたことが大きいと思います。無観客開催でも競馬を楽しむ手立てはあり、レース自体は各テレビ局の競馬中継やJRAのオフィシャル放送である「グリーンチャンネル」でご覧いただけますし、馬券は、電話投票やインターネット投票でも買うことができます。
佐藤 以前から馬券購入にはさまざまな仕組みを導入されてきたそうですね。それが功を奏した。
後藤 いまは生活が多様化し、土日だけが休みではありませんし、勤務時間も9時から5時と決まっているわけではありません。だから少しでもオプションを増やしたほうがいいと考えてきました。競馬場やウインズ(場外勝馬投票券発売所)等では、キャッシュレス投票用ICカード「JRA-UMACA」を利用した「UMACA投票」や、QRコードを使った「スマッピー投票」ができますし、電話、インターネット投票では、指定銀行に口座があれば投票できる「即PAT」、専用口座を作っていただく「A-PAT」、クレジットカードを使う「JRAダイレクト」などを導入しています。こうした取り組みが、結果に結びついたことになります。
佐藤 ネットや電話での購入はどのくらいの割合ですか。
後藤 コロナ前だと競馬場、ウインズ等の現金投票が3割で、残りがネット、電話投票でした。これが昨年は9割を超えましたね。
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