人妻に手を出し、突然夫から呼び出された41歳男性 彼女の“信じがたい言い訳”と鼻を折られて残った感情
「きみに無理強いされたと言っている」
その後、上司から飲みに誘われ、そのまま家まで行くこともあった。理栄子さんに興味を抱いてはいるものの、なかなかふたりで話す機会はない。
「半年ほどたったころでしょうか、理栄子さんから『相談したいことがある』って。またかと思ってしまいました(笑)。女性から相談を受けて、結局、自分が幸せになった試しがないので。今回は上司の妻だし、相談に乗ることさえ躊躇しました」
それでも会いたかった。彼女とふたりで会えるチャンスは、二度とないかもしれない。だから彼女が指定してきた店に30分も早くから行って待っていた。
「彼女は個室を予約してくれていました。彼女はやって来ると、彼女の夫であり僕の上司である人のことにはいっさい触れず、世間話もしないままに悩みをぶちまけました。彼女、上司とは再婚なんだそう。ふたりの関係はうまくいっているものの、先妻の子である娘とどうも相性がよくない、と。『とてもいい子で、私は好きなんです。だけど私から近づき過ぎるとうっとうしいだろうなと思っているうちに妙な距離ができてしまった。もう4年も一緒に暮らしているのに気持ちが行き交った実感がない』って。上司が再婚だったこと、先妻に死なれていたこと、理栄子は初婚だったことなどを初めて知りました。この人にはこの人の過去があって、共有できないんだなと思ったら急に寂しくなって、食事が終わると『ふたりきりになりたい』と言ったんです。あんなにまじめに女性を口説いたことはありませんでした。ダメと言われたけど『僕を助けると思って、少しだけ時間をください』と頭を下げました。なんだか心の奥のほうから叫び出したくなるような、いても立ってもいられないような気持ちだった」
ホテルに行ってから、「実は私も一哉さんのことが気になっていた。もっと早く出会えていればよかったのにね」と言われ、彼は涙をこぼしたという。本気が報われた瞬間だった。だがそれは同時に苦悩の始まりでもあった。
「昼間、会社で上司に会うと、こんないい人を騙していると苦しくなる。だけど一方で、上司の知らない妻の顔を僕は知っていると、ちょっと誇らしくなる。男として勝てるところがないから、そんなふうに思うことで自分を鼓舞していたのかもしれません」
ところが1年ほどたったころ、上司から飲みに誘われ、指定された店に行くと、そこに理栄子さんがいた。嫌な予感が体を走った。
「上司は僕にビールを勧めましたが、理栄子さんは笑顔ひとつ見せない。とてもビールに口をつけられる雰囲気ではなかった。それでも上司は世間話ばかりしている。しばらくたってようやく、『なあ、理栄子は僕の妻なんだよ』と言い出して。バレたかと理栄子を見ても彼女は目を合わせようとしない。『理栄子はきみに無理強いされたと言っている。だけどぼくはきみの意見も聞かなければいけないと思った。だから来てもらった。どうなんだろうか』と。僕は黙るしかなかった。言いたいことは言えと言われたけど、とても話せない。結局、理栄子は僕が彼女を、夫のことで話があると呼び出し、飲み物に睡眠薬を入れて無理矢理関係をもたされたと、夫に白状したということになっていた。それはないでしょと思いましたが、ずっとうつむいている理栄子を見ると、違うとは言えなくて。ただ、『実際に関係はもっていない』とは言いました。それは上司のための嘘です」
1年間、理栄子さんの言うことはすべて聞いてきた。ドライブしたいと言われればすぐにレンタカーを借りた。間に合わなくて友人を拝み倒して車を借りたこともある。ホテルだと顔を見知られるかもしれないと彼女が怯えたので、ウィークリーマンションを契約していた時期もあった。ふたりだけの秘密の時間に、彼は彼女の性的な嗜好にも協力した。彼女がいたぶられるのが好きだったのだ。だから彼は縄を購入し、密かに緊縛を学んでマスターした。
「それも彼女への真摯な気持ちがあったからです。でもそれらはすべて“なかったこと”にされた。全部、僕の強要だから……。それはないでしょと思ったけど、言い訳する気力がありませんでした」
上司は妻の言うことを信じたのだろうか。信じたかっただけかもしれない。だから3人でいきなり面談という手を使ったのではないだろうか。彼はそこまで考えて、すべて自分が引き受けると腹をくくった。
「辞表を出しますと言ったら、『こんなプライベートなことで辞める必要はないよ』と。ただ、お互いに顔を見ているのはつらいから、どちらかが異動願いを出そうって」
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