立浪以来の高卒ショート!“令和の牛若丸”滝沢夏央を獲った西武の“金の卵”発掘法

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地方大学の選手を積極的に上位指名

「当然、滝沢はマークをしていましたが、やはり身長を考えるとそれを補うだけの圧倒的な武器がないとプッシュするのは難しいですよね。足も“普通の俊足”というレベルで、『Sランク』というわけではない。守備も細かいステップはできるし、スローイングも良かったですが、能力がズバ抜けているという印象ではなかったです。ただ、西武は春の段階で、かなり(スカウト関係部署で役職が)上の人も何人も見に来ていたので、正直、『そんなに評価高いのか』と驚いたのを覚えています。タイプとしては、『進学して力がついてから』と考える球団が多かったと思います。まさか、いきなり一軍であんなに打てるとは思わず、驚いています。源田が復帰すれば、ショートからは外れると思いますが、1年目でこれだけ一軍を経験して、結果が残せていれば十分ですよね」(他球団の新潟県担当スカウト)

 では、西武は、低いドラフト順位とはいえ、滝沢を指名することができたのだろうか。その理由は、独自色の強いドラフト戦略にある。過去には、二度のホームラン王に輝いた山川穂高(富士大・2013年2位)をはじめ、細川亨(青森大・01年自由枠)、山崎敏(平成国際大・03年自由枠)、美沢将(第一工業大・09年2位)といった、他球団が高く評価することが少ない地方大学の選手を積極的に上位で指名している。

 また、伊藤翔(徳島インディゴソックス・17年3位)、松岡洸希(埼玉武蔵ヒートベアーズ・2019年3位)と、独立リーグの選手も高い順位で獲得している。これを見ても「隠し玉」とまではいかなくても、他球団の目があまり向いていない地域やカテゴリーから選手を発掘しようとする意識の高さが感じられる。

隠れた逸材への期待

 ちなみに、一昨年の育成ドラフト5位で指名し、現在は一軍でリリーフとして活躍する水上由伸も、全国で最もプロ野球選手の輩出が少ないリーグの一つである「四国地区大学野球」の四国学院大でプレーしていた。

 残念ながら、故障もあって昨年限りで引退した綱島龍生(糸魚川白嶺・17年6位)は、滝沢と同じ新潟県の高校出身の選手だった。過去を振り返ってみても、プロで活躍している同県の高校出身者は少なく、西武にとっては新たな“ブルーオーシャン”だったとも考えられる。

 現場でアマチュア野球を取材していると、西武のスカウト陣は、他球団のスカウトとは、かなり離れていた場所で試合を視察していることが多く、選手の評価については、基本的に渡辺久信GMや潮崎哲也編成ディレクターといった管理職だけが取材に応えている。他の11球団とは一線を画した戦略、体制をとることが、今回の滝沢獲得に繋がったといえるだろう。

“令和の牛若丸”がこのまま一軍で活躍し続けることができるかは未知数だとはいえ、いつの時代もこういったシンデレラストーリーを野球ファンは望んでいる。今後も“隠れた逸材”がすい星のごとく現れることを期待したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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