〈マイファミリー〉仲間の子供を狙った「東堂樹生」の犯行動機を探る
東堂の動機、心春誘拐の犯人は…
ここからは一考察を書かせていただきたい。
東堂の動機は何か? それは5年前に誘拐された自分の娘・心春(野澤しおり)の奪還にほかならない。そのために警察の介入しない完全誘拐のシチュエーションをつくりだそうとした。だから友果、優月の連続誘拐事件を起こした。真の狙いは3番目の実咲の誘拐である。
連続誘拐の目的が完全誘拐の状況づくりであることは捜査を担当する神奈川県警捜査1課・葛城圭史(玉木宏)にも分かっている。けれど葛城は目的を読み違えている。
葛城は身代金を容易に奪える環境をつくるためと考えている。だが、東堂の目的はカネではない。心春の誘拐犯と警察を介さずに直接交渉したいのである。
東堂はどうしても温人に犯行に加わってほしかった。だから友果を狙った。鳴沢一家が「心春誘拐のキーパーソン」と関係が深いからである。次に優月を標的にした理由は完全誘拐の状況をつくりたかったため。身代金は温人が三輪のために立て替えると踏んだ。
第5話で東堂側から温人に1億円が届けられ、鈴間による人口音声が「私たちは完全誘拐を実現するファミリーですから」と伝えたのはどうしてか? それは実咲誘拐の犯行に欠かせない温人が脱落し、警察と接触するのを防ぐためである。心春誘拐のキーパーソンと公私で関係がある温人がいなくなってしまったら、困るのだ。
書くまでもないことだが、心春の誘拐と友果、優月、美咲の3つの誘拐は犯人が別。東堂が自分の娘をさらうはずがない。
心春と友果の事件は表面上、似ている。最大の共通点はどちらの事件も犯人が身代金受け渡し場所として「娘の小1の時の遠足先」を指定したこと。
犯人しか知り得ない秘密だ。葛城が「同一犯」と睨んだのも無理はない。ただし、この「秘密」を知る人物は現在の捜査陣以外にもいる。心春誘拐の被害者家族・東堂だ。
なぜ、東堂が身代金受け渡し場所の指定に「秘密」を用いたのかというと、心春誘拐の犯人を揺さぶるためである。東堂が友果事件の暴露本を出し、犯人をあぶり出そうとしたのと目的は一緒だ。
温人は「遠足先」を知らなかった。それでも犯人は交渉を再開し、友果は戻ってきた。犯人が東堂なのだから当然である。東堂には友果を殺すつもりなど最初からなかった。
東堂に殺意がなかったのは優月の誘拐を振り返ると、よく分かる。優月がぜんそくの発作を起こすと、身代金受け渡しの時間を繰り上げた。もしも身代金目的なら、優月を放っておき、カネだけを受け取れば良かったのである。
友果は事件によって心に深い傷を負い、暗闇恐怖症になってしまった。優月にも後遺症の兆候がある。むろん東堂は心が痛んでいるだろうが、心春奪還のために鬼になっている。
第4話で東堂は強ばった面持ちで、「小春ちゃんを取り戻すためなら、なんだってやる」と漏らした。東堂にとって心春はかけがえのないファミリーなのである。
もう1人、同じく「なんだってする」と第7話で漏らした人物がいる。阿久津だ。実咲を取り戻そうと躍起になっている。心春誘拐のキーパーソンも阿久津夫妻にほかならない。
心春は5年前の事件当時、横浜清風女子大学附属小学校に通っていた。現在は同中3年である実咲と同級生で、親しかったことが第5話で伝えられている。この2人の少女の間に何かが起きた。それが心春誘拐につながっている。
実咲の誘拐は友果、優月の誘拐とは様相がかなり異なる。身代金は10億円で2倍。その受け渡しは1日1億円ずつで、10日間にわたる。阿久津夫妻の心身の負担が重い。
もっとも、東堂の狙いはここにある。目的が身代金でないのは友果、優月の時と同じだが、阿久津夫妻にダメージを与えようとしている。それによって心春誘拐の真相に迫る考えなのだ。
心春誘拐の犯人は……。阿久津夫妻以外に考えられない。東堂は1人でコツコツと調べ続け、そこに辿り着いたのだろう。
鈴間は東堂か妻の亜希(珠城りょう)の親族だろう。誘拐などの重罪の犯行グループは強固な結び付きがないとつくり上げにくい。おそらく心春は鈴間にとっても大切なファミリーなのだ。
友果と優月の誘拐には奇妙な共通点がある。まず温人は誘拐によって仕事第一主義を反省し、以前より家族に目を向けるようになった。2人目の子供までもうけた。
自分の浮気によって3年前に離婚した三輪は優月が心配で、今は沙月と3人で暮らしている。三輪と沙月は復縁するのではないか。
誘拐被害に遭った2家族は以前より温かく暮らしているのである。おそらく東堂は自分と同じく家庭をおざなりにしていた仲間2人に対し、自分と同じ深い悲しみを与えることにより、「一番大切なものは何か」を気づかせようとしている。2人がファミリーだからである。
このドラマのメインテーマは犯人当てではないだろう。「ファミリーとは何か」が最終回までにくっきりと浮かび上がるはずだ。
コロナ禍時代にふさわしい野心作である。
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