部下からの相談に「仕方ないな」で有罪判決 会社員が“犯罪人”になる最高裁判決の注目ポイント

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 タイの発電所建設を巡り、日本企業の社員らが現地の役人に賄賂を支払い、不正競争防止法違反(外国公務員贈賄罪)に問われていた事件に、ピリオドが打たれた。5月20日、最高裁は「三菱日立パワーシステムズ」元役員、内田聡被告(67)に対して、懲役1年6カ月、執行猶予3年とした一審の判決を支持し、控訴を棄却。これによって刑が確定した。

 とはいえ、新聞でもベタ記事扱いだったこの地味目なニュース、皆さんも素通りされたかもしれない。だが、今回の判決は、とくに会社勤めの方々にとって、決して他人事ではないのだ――。

初の司法取引案件としても注目

 事件のあらましはこうだ。2015年、「三菱日立パワーシステムズ」(MHPS)が、タイに火力発電所を建設する工事を進める中、資材の陸揚げ用桟橋の使用が、役所への申請の不備により、却下されてしまう。荷揚げをしないと工事は進まないわけで、企業側が苦慮していると、現地の役人が賄賂を要求したという。

 荷揚げにはこれ(贈賄)しかない、と思った内田氏の部下2人は、この件を取締役だった内田氏に説明した上で、現地の関係者にゴーサインを出して約4000万円の賄賂を支払ってしまったのだ。

 海外贈賄に詳しい、社会構想大学院大学の北島純教授が語る。

「内部告発で贈賄を知るところになったMHPSは、社内処分を下すとともに、事態を重くみて、東京地検特捜部にこの話を持ち込み、情報提供を含む捜査協力の見返りに、会社の責任を問わないようにする、いわゆる司法取引制度を利用したのです」

 実際、会社は罪に問われることはなく、その一方、「社長候補」とまで言われていた内田氏は、急転直下、刑事被告人となった。

「まず他人事ではない点の一つ目がここです。司法取引制度を利用すれば、会社がトカゲの尻尾切りとばかりに、社員個人に責任を全て“押し付ける”こともできるわけです。日本では『会社は社員を守る』という温情的なイメージがつきものですが、そんなことは決してないことを肝に銘じるべきでしょう。いざとなったら会社に“売られ”、企業犯罪の“全容”が闇に葬られることになる可能性もあるのです」

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