吉野家炎上に学ぶ「令和型危機管理術」 研修は本当に無意味なのか?

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P&G出身にもかかわらず…

 ただ、今回の騒動に日本中の会社が衝撃を受けたのは失言の内容とそれに伴う損失の大きさだけが理由ではなかった。このような失言を避けるため、経営陣に定期的に行っているコンプライアンス教育や研修が、実はそれほど効果がない可能性を示唆している点に慄然としたのだ。

 伊東氏が新卒から17年の退社まで在籍していたP&Gは、世界180カ国以上でジェンダー平等キャンペーンを展開している。また、独自に開発した「ダイバーシティ&インクルージョン研修プログラム」をこれまでに400社以上に無償提供するなど、国内でもトップレベルで教育や研修に力を入れている。

 そんな企業で幹部にまでなった伊東氏ならば当然、平均以上のジェンダー教育や危機管理研修を受けてきたはずだ。にもかかわらず、口から出たのは「生娘をシャブ漬け戦略」――。この厳しい現実を突きつけられ、企業内で研修などを企画する人々は無力感に打ちひしがれていることだろう。中には、「失言」に教育や研修は役に立たないのではと感じている人もいるはずだ。

謝罪会見という「舞台」

 しかし、それは大きな誤解である。報道対策アドバイザーとして、これまで300件以上の企業危機管理に携わってきた経験から言わせていただくと、教育や研修の効果がないように見えるのは、そこで教えている危機管理が「古い」ということが大きい。

 10年前はほぼやっていなかったテレワークや在宅勤務が普及しているように、ビジネスの常識も時代とともに変わっていく。それと同じで企業危機管理の常識も劇的に変わっているのだ。

 では、具体的にどう変化しているのかというと、これまで主流だった「芝居型危機管理」(以下、芝居型)から、「フリートーク型危機管理」(以下、フリートーク型)へと徐々にシフトしているのである。

 聞き慣れない言葉に戸惑うだろうが、前者は「謝罪会見」を想像していただければわかりやすい。このような状況の危機管理で何よりも大切なのは「徹底した守り」であることは言うまでもない。

 登壇する経営陣は事前に用意したメッセージだけを繰り返し、私見や憶測は一切述べず、答えづらい質問は、「現在調査中です」とはぐらかす。また、世間から批判されないよう、立ち居振る舞いもルールをしっかりと守らなければいけない。シャツやネクタイの色から、おじぎをする角度、頭を下げておく時間まで、「正解」が決められているので、経営陣はそれに従うことが求められる。

 つまり、謝罪会見における経営陣というのは、芝居における「役者」とほぼ同じ役割なのだ。衣装も動きもセリフもすべて決まっているので、演者(経営陣)に勝手なアドリブをされてしまうと、舞台(会見)に混乱が生じてしまう。

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