肝臓・胆道・膵臓の「難治がん」との賢い闘い方4 転移のない状態でみつかっても治療成績が厳しい「膵がん」の全体像
急ピッチで増えている
最新の統計によると、国内で一年間に膵がんと診断される患者は4万2000人以上であるのに対し、死亡者数は3万6000人ほど(国立がん研究センターがん情報サービス)。それぞれの数字に大きな差がないことが、いかに難治性であるかを物語っていると言えよう。がん治療のエキスパートである東京目白クリニック院長の大場大氏、虎の門病院消化器外科医長の進藤潤一氏が、実態があまり知られていない膵がんの全体像について語る。
大場:実は、私のクリニックに外来通院で抗がん剤治療(外来化学療法)を行っている患者さんの中でいちばん多いのが膵がんです。宣伝のように聞こえてしまうかもしれず恐縮ですが、私はクリニック院長としての診療のみならず、現在も順天堂大学肝胆膵外科教授である齊浦明夫先生(第3回参照)のもとで、手術治療を希望される難治がん患者さんの抗がん剤治療を非常勤講師として担当しています。2021年に開設した私のクリニックは、そういったがん専門センター病院と同じクオリティの治療を、待ち時間なく気軽に外来で受けられることを目指しています。そうした施設は、社会的ニーズはあってもこれまで国内にはなかったと思います。
話は少し逸れるのですが、進藤先生が留学されていた米国ヒューストンにあるMDアンダーソンがんセンターは、がん領域の病院ランキングで全米1位を獲得した有名な施設ですよね(U.S. News & World Report 2021-2022)。そのような海外の有名なセンター病院の手術レベルや外科医の実態について、一般読者にはあまり情報が伝わってきません。そのMDアンダーソンが必死で進藤先生を引き留めたというエピソードなどについてはまた触れる機会があるといいですね。
そのような病院では、抗がん剤治療は専門医が外来ベースで行うのが通常です。大切ながん患者さんの時間を、必要性のない入院治療や長い待ち時間のために奪うべきではありません。私のクリニックでもその理念で治療を実践しています。
日本人の膵がんは、欧米先進諸国の中でもっとも急ピッチに、罹患数も死亡数も右肩上がりで増えていることが実はあまり認識されていません。2020年の国内がん死亡数の順位をみても、男性では4位、女性では3位が膵がんであることもあまり知られていない。よくステージ○は?と聞かれますが、正直、膵がんでは早期と進行の明確な区別がほとんどありません。眼球や肌が黄色くなる黄疸症状や痛み症状がきっかけで発見された場合、言いかえると、がん自体の物理性が原因で見つかった膵がんは、ステージに関係なく進行がんであることがほとんどですよね。
前出典の10年生存率をみても、膵がんの場合、ステージI:35.4%、ステージII:13.0%、ステージIII:4.1%。転移のない状態でみつかったとしても膵がんの治療成績がいかに厳しいかを物語っています。かつては他人事のような病気が、今では身近なリスクとなりつつある。だからこそ、治癒の確度をより高めてくれる医師、病院選びがより重要になってくるように思うのですが。
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