4630万円誤送金 9割回収の奇跡を起こした阿武町顧問弁護士がとった“ウラ技”

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恫喝

 その際、中山氏が持ち出したのが「国税徴収法」であった。金額は不明だが、田口容疑者はなんらかの税金を滞納していたようだ。

「滞納処分では、民間の案件とは異なり、裁判所で判決を取らなくても徴収職員が滞納者の財産を差し押さえることができます。だから、町は男性の預金とみなされた決済代行業者の預金をいきなり差し押さえることが可能だったのです」(同)

 それだけではない。その際に、法に基づき”恫喝”したのだ。中山氏は、決済代行業者の口座がある二つの銀行に対して、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」8条1項に基づき、犯罪による収益と関係する「疑わしい取引」が行われているとして金融庁への届出と、同庁の定める「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に基づく対応を求めた。

「あなたたちは怪しい取引をしていますよねと暗に圧力をかけたのです。決済代行業者にもやましいところがあったのでは。これ以上突っ込まれることは避けたいと考え、自ら町に全額を返金してしまったのでしょう」(渥美氏)

決済代行業者は泣き寝入りか?

 町は、決済代行業者の預金を差し押さえたが、そこから最終的に受け取ることができるのは、あくまで、滞納されていた税金の額に限られる。しかも、決済代行業者は約4300万円を町に振り込んだため、滞納税金との差額は田口容疑者が自分のものとして、返還を求めることができた。他方、町も田口容疑者に対し、誤送金した4630万円の返還を求めることができる状況にあった。町は、これらの返還請求権を事実上相殺する“ウルトラC的手法”で、田口容疑者に対する債権の回収に成功したわけである。

 割を食ったのは決済代行業者である。現在、山口県警が捜査にあたっているが、海外で運営されているオンラインカジノの金の動きを追うのは困難で、田口容疑者が実際にギャンブルで使いきったかどうかはわかっていない。だが、もし彼の供述が事実ならば、決済代行業者は、田口容疑者がギャンブルで浪費した4300万円を自腹で穴埋めしたということになる。

「それが彼らのリスク判断なのでしょう。決済代行業者が男性に対して、損害賠償請求を検討するかもしれませんが、男性は無資力でしょうからそこから回収は難しいのでは」(同)

反マスク主義者?

 しかも、影響は今回のケースにとどまらない可能性があるという。

「決済代行業者が阿武町からの請求を認めて男性からの入金を全額返金したということは、自ら公序良俗に反する取引をしていたと認めてしまったに等しい。今後、オンラインカジノで負けた利用者が、決済代行業者に対し公序良俗に反する取引だったため無効であり、入金額相当の債権があると主張し始めるかもしれません」(渥美弁護士)

 決済代行業者にとっては思わぬ波及効果が起きかねないというのである。見事、阿武町を救ったヒーローになった中山氏であるが、24日の記者会見では、突飛なことを言い出して、「変な弁護士」とのレッテルも貼られたという。

「マスクをつけないで会見に臨んでいたのですが、いきなり話の途中で、『申し訳ありませんけれども、私はそういう義務に従うつもりがない。遵法精神がない、同調しないタイプの人間ですので』と断り出したので、ざわつきました」(地元記者)

 これだけのことを成し遂げたのだから、多少の変人ぶりは目をつぶってもいいのかもしれない。

デイリー新潮編集部

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