ウクライナ危機は「安全保障のジレンマ」状態 ロシアは本当に核兵器を使用しないのか

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 フィンランドとスウェーデンは5月18日、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請した。北欧2カ国は「ロシアを過度に刺激したくない」との思惑から軍事的な中立を維持してきたが、ロシアがウクライナの侵攻に踏み切ったことで「中立を守っても安全を確保できる保障はなくなった」と痛感し、長年続けてきた中立政策を転換するという歴史的な決断を行った。

 申請について、ストルテンベルグNATO事務総長は加盟手続きを急ぐ考えを強調し、バイデン米大統領も「両国の加盟を強く支持する」との声明を発表した。加盟は軍事作戦上のメリットがある。バルト海に面する両国が加われば、カリーニングラードを拠点とするロシアのバルト艦隊へ圧力をかけられる。

 両国のNATOへの正式加盟には時間がかかるものの、NATO側は既に両国を加盟国扱いしている。NATO軍のロシア軍に対する優位がさらに拡大することが確実な情勢だが、この動きはウクライナ危機の早期解決に役立つのだろうか。

 日本ではあまり語られることはないが、国際政治学の分野には「安全保障のジレンマ」という概念がある。軍備増強や同盟締結など自国の安全を高めようと意図した国家の行動が、別の国家に類似の行動を誘発してしまい、双方が欲していないのにもかかわらず、結果的に軍事衝突につながってしまう現象を指している。

 安全保障のジレンマという概念が生まれたきっかけは第1次世界大戦だとされている。

 ロシアとフランスという2つの大国に挟まれた当時のドイツは、2つの戦線で同時に戦うことができる動員計画(シュリーフェン・プラン)を策定した。ドイツがこのプランに従い動員を始めると、これを脅威に感じたロシアとフランスも動員を開始する事態となった。欧州列強はいずれも戦争を望んでいなかったが、結果的に泥沼の世界大戦に入ってしまったという経緯から生まれた考え方だ。

 北欧2カ国は人口規模は大きくないが、地域の軍事大国だ。フィンランドとロシアの国境は約1300キロメートルに及ぶ。安全保障のジレンマによれば、西側諸国にとっての防衛的な行動がロシアには攻撃的に見える。「世界一強大な米国が率いるNATOがロシア国境に近づいても、ロシア側が恐怖を覚えることはない」という発想は通用しないと考えた方がいいだろう。

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