〈ちむどんどん〉東京編もパッとせず…賢秀は愛されないただのダメ男ではないか

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ヒロインの描き方も…

 残念ながら、暢子も共感しにくい。ヒロインだから、これは痛い。ドラマは主人公に感情移入できたら、ある程度のストーリーの矛盾やほころびは気にならなくなる。そもそもドラマはみんなウソであり、矛盾とほころびだらけなのだ。

 例えば「カムカムエヴリバディ」の2番目のヒロイン・るい(深津絵里、49)は住むところも働き先も決まらぬまま、岡山から大阪に出て、ホテルの採用試験を途中で辞退し、ばったり出会った竹村平助(村田雄浩、62)が営む「竹村クリーニング店」で働き始める。住み込みだ。

 るいの無計画は問題にされなかった。また住み込みの場合は防犯面の問題もあるから、実家の雉真家に照会の連絡をするはずなのだが、平助はしていない。これも観る側は問わなかった。

 初対面で保証人もいない人間を住み込みで雇うというという行為は考えられない。商家の人なら分かるはず。ところが、るいや平助ら登場人物に共感できるから、そんなことは気にならなかったのである。

 暢子はるいと同じ立場。勤め先も住むところも決まらぬまま上京した。ところがキャラ設定のチューニングがうまくいっていないから共感しにくく、「無謀な上京」に見えてしまう。

 比嘉家の次女である暢子のイメージはお調子者で強情、自己主張が強い。長女の良子(川口春奈、27)は努力家でしっかり者、献身的。3女の歌子(上白石萌歌、22)は繊細で内向的だが、芯は強い。チューニングが不調ということもあり、暢子のキャラ設定が最も損をしている気がする。

 第26話。暢子は憧れの東京に出てきた。本人が強く望み、母・優子(仲間由紀恵、42)が後押しした。それなのに上京当日、東京・銀座で「山が見えない、海も畑も。こんなとこ住めない。やんばる(山原村)帰る~」と叫んだ。情報収集不足だし、ちょっと早過ぎないだろうか。そう思えてしまうのもキャラ設定のしくじりからだ。

 大学生になった幼なじみ・前田早苗(高田夏帆、25)の好意で入ったイタリアン・レストラン「アッラ・フォンターナ」での一幕も暢子の共感度を下げただけではないか。二ツ橋光二(高嶋政伸、55)に向かって「これ何?」と聞いたのにはクビを傾げざるを得なかった。微笑ましさを狙ったのかも知れないが、そうなっていない。こんなシーンが必要だったのだろうか。

 第27話。賢秀を探しに行った鶴見区で雨宿りをしていると、三線の音が聴こえてきたので、沖縄県人会会長・平良三郎(片岡鶴太郎、67)の家の戸をガラガラと開けた。共感できるヒロインなら「物怖じしない」で済むのだが、そうでないので、申し訳ないが、「不作法」に映ってしまう。

 賢三は暢子に対し、「そのままでいい」と言っていた。暢子はずっとこのままなのだろうか。言うまでもなく黒島結菜のせいではない。ドラマは「1に脚本、2に役者、3に演出」なのだから。

 もちろん、この先の楽しみもある。第一に賢三の過去。三郎は暢子から賢三の名前を聞いた途端、目の色が変わった。ひとかどならぬ縁があるはずだ。

 暢子が勤めることになった「アッラ・フォンターナ」のオーナー・大城房子(原田美枝子、63)も、三郎からの紹介状でそれを知ると、「まさか」と絶句した。

 鶴見区には京浜工業地帯があるため、大正末期から沖縄県人が住み始めたが、本土復帰前には決して許されない差別があった。このため、沖縄県出身者同士で支え合わなくてはならず、強固な結びつきを持つ県人会が1953年に生まれた。「リトル沖縄(沖縄タウン)」も出来た。そこで若き日の賢三は何をしたのか。どうして沖縄に帰ったのか。興味がかき立てられる

 このテーマなら面白くなるはずなのだ。沖縄本土復帰50年自体がドラマなのだから。県紙の「琉球新報」と「沖縄タイムス」も連日のように関連記事を載せ、応援している。今後に注目したい。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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