離婚を切り出した妻の“30年分の愚痴”に58歳夫の言い分 冷蔵庫の食材を捨てる姿にムッとして何が悪い?

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とりあえずの“決着”

「私を下に見ていると妻は言いますが、それはない。ずっと言っているように夫婦で分業していると僕は思っていた」

 稼いでいるのは自分なのだから、言うことを聞けと思ったことが一度もないかと問うと、彼はしばらく考え込んでいた。

「たとえば冷蔵庫を開けた妻が、『ああ、もうダメだわ、これ。食べられない』と野菜などを捨てているのを見たとき、ちょっとムッとしたことはあります。誰のお金で買ったんだ、と。自分のお金で買ったという感覚がないから、家族は物を大事にしないのではないかと思ったし、それはある意味、当たっているんじゃないですかね。オレが偉いと思ったことはないけど、もうちょっとねぎらってもらってもいいよなと思ったことはありますね」

 圭太さんは正直にそう言った。ふたり暮らしになってから、妻はほとんど料理をしなくなった。それについて怒る気持ちにもなれなくなったと彼は言う。

「僕も定食屋で食べて帰ったり弁当を買ったりしています。別に料理をしなくてもいいけど、なんとなく家の中が殺伐としているのは気になっていますね。それが妻の気持ちを表しているようで」

 会って話をしてから2週間後、圭太さんから連絡があった。離婚はしないことになったが、「家庭内別居」を始めたそう。つまりは妻がすべての家事を拒否したのだという。仕事から帰ると、圭太さんは洗濯機を回して自分のものは自分で洗濯する。リビングや風呂、トイレの掃除などは当番制になっている。

「これなら離婚したほうがいいのかとも思いますが、妻もいつか気持ちが変わるかもしれない。しばらく家庭内別居とやらをやってみます」

 そう言った圭太さんの表情は暗い。まだ50代、家庭内別居という名のひとり暮らしを楽しんでみてもいいのではと提案したが、家事ができない男性は、どうしても生活のクオリティが下がってしまう。それを痛感したとき、彼の妻への気持ちが変わるのかどうか。あるいは彼の家事スキルが飛躍的に伸びるのか。それ以前に、これがきっかけで心身ともに不調に陥らなければいいがと思いながら、彼の背中を見送った。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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