離婚を切り出した妻の“30年分の愚痴”に58歳夫の言い分 冷蔵庫の食材を捨てる姿にムッとして何が悪い?
バレていた浮気
そんなふうに、彼に言わせれば「とりとめもない不満話」を延々とされたあげく、最後はばっさり「やっぱり離婚したほうがいいのよ」と締めくくられた。
「浮気もしていたでしょ、今もしているでしょと突然、言い出したときはドキッとしましたね。息子が中学の部活で骨折したことがあるんですが、その連絡がつかなかったと。あれは出張と偽って浮気をしていたんだと妻は責める。そんなこともあったかもしれないなという感じなんですよ、僕にとっては。30代後半からコロナ前までは本当に忙しかったし、忙しいなりに出会いも多かった。会社は業績悪化で青息吐息でしたが、それでも多忙だったから、そういうときはつい色恋もがんばってしまうんですよね」
圭太さんは何かを思い出したのか、ふふと含み笑いをした。妻に浮気をしていたでしょと言われても全否定したそうだ。だが、楽しい恋の思い出もあるらしい。
「本気の恋もありましたよ。40代後半、子どもたちは高校生と中学生。相手も人妻だったんです。いっそすべて捨てて、ふたりで遠くへ行こうと言ったことがあります。朝早く、車で出かけたけど、結局はふたりとも気持ちが萎えてしまって、その日の夕方には戻りました。だから誰も駆け落ちしたとは思っていない。情けない記憶だけど、あのときすべてを捨てていたらどうなったんだろうと今でも思うことがあります」
証拠はなくても、妻は夫の雰囲気から浮気を疑っていただろうし、確かな実感があったのだろう。
「男という存在が割に合わない」
自分では横暴に振る舞ったつもりはないが、妻は「横暴だった。いつもひとりよがりだった」と主張してきた。
「おかずが少ないと文句を言った、夜遅く帰ってきてお茶漬けを作れと言った、とか。共働きだったら言いませんよ、僕だって。でも彼女はほぼ専業主婦だから、そのくらいしてくれてもいいだろうと思っていました」
パートで働いているのに、夫から見るとそれは「労働」にはなっていないようだ。そういえば思い出したと彼は言った。
「僕のほうの親戚関係で何かあって、ちょっと菓子折でも送っておいてと頼んだとき、妻は『今日は仕事だから行けない』と言ったんですよ。それは前から言っていたのに、なかなかやってくれなかったから、僕はイライラしていたんでしょうね。どうせパートだろ、いつやめてもいいようなものじゃないかと言った記憶がある。妻は『あなたの会社のパートさんにも同じことが言える?』とムキになっていましたね。でも僕は働く必要はないと言っていたんです。仕事がしたい、子どもの学費のためにもお金を貯めたいと言うから、働いてもいいよということになった。無理して働かなくてもよかったんです」
それもまた、妻の意志を踏みにじっていることに彼は気づいていない。パートだから責任がないわけではないし、仕事は対価を得るためだけのものとは限らないのだ。実際、妻はパートの仕事を楽しんでいたし、そこで友人もできた。職場の上司からは何度か正社員への打診があったという。だが、そういう話も圭太さんは右から左へと流していた。
「結局、私という人間に興味がなかったのよと言われました。興味がなければ結婚しないよと言ったら、じゃあ結婚してから興味を失ったのよ、と。それはお互いさまでしょう。そういう話をずっとしていたら、僕は何のために結婚したんだろうという気持ちになっていきました。家族のために、嫌な上司に媚びへつらい、部下をおだててやる気にさせてがんばってきた。自分のために働いているという意識はあまりなかった。ここで辞めたら家族が食えない。それが僕のモチベーションだった」
だが、妻はそうは思っていなかったようだ。「私が家事育児を完璧にやっていなければ、あなたは安心して働けなかったでしょ」と言うのだ。圭太さんは「オレが働かなかったら、きみも子どもたちも食えなかったでしょ」と言いたいところだった。だが男がそれを言ったら終わりだと思うから言えない。
「なんだか男という存在が割に合わない気がしましたね」
圭太さんはそう言って笑ったが、どこか虚しい笑いだった。
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