ポスト「鬼滅」の大本命 「SPY×FAMILY」大ヒットに導いた“ワクワク”させる大仕掛け

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老若男女が楽しめる

 近年のマンガのヒット作には、重いテーマのものも少なくない。例えば『鬼滅の刃』では主人公は鬼に殺され家族を奪われた竈門炭治郎だ。また『呪術廻戦』や『進撃の巨人』、『キングダム』では時に仲間が容赦なく死んでいく。そうしたハードな描写が現代の日本マンガの持ち味のひとつだが、同時にもう少し気軽にマンガを楽しみたい、読みたいといったニーズもある。

『SPY×FAMILY』はそんな読者の気持ちを捉えた作品だ。主人公たちの“スパイ”“殺し屋”“超能力者”といった設定なら、もっとハードなストーリーに寄せることもできるはずだ。しかし『SPY×FAMILY』にはアクションはあっても、残酷描写は見られない。

 反対にショッピングや食事といった3人の些細な日常やアーニャの学園生活などが多く描かれる。どこか天然な3人のキャラクターの性格とポップでお洒落なビジュアルは、どんな世代・層にも馴染みやすく、作品へ足を踏み入れる敷居を低くしている。

 ただ楽しいだけでないのも、『SPY×FAMILY』の魅力だ。作中のロイドやヨル、アーニャたちのプロフィールから、彼らが過酷な人生を背負っていることも窺い知れるが、それを前面に出さず、背景として感じさせることで作品に深みを与えている。

 もうひとつの成功の理由は、ファンの期待に応えた映像にある。

高い映像クオリティ

 今回、アニメーション制作はWIT STUDIOとCloverWorksという2つのスタジオが共同で手がけている。それぞれが『進撃の巨人』と『王様ランキング』(ともにWIT STUDIO)、『約束のネバーランド』(CloverWorks)といったヒット作を生みだした業界屈指のヒットメーカーである。

 人気原作のアニメ化はスタート当初より原作ファンが大勢いることから、ある程度のヒットが見込め、製作サイドからは好まれる企画だ。しかし人気原作をアニメ化するだけでヒットが約束されるわけではない。むしろ人気作だからこそ注目は大きくなり、期待値も高くなる。それだけに出来上がった映像で期待が裏切られると失望に変わり、ファンの支持が離れ、人気が急失速することもある。

 ファンを納得させる映像は、アニメ化の最重要課題である。『SPY×FAMILY』は、そこで期待以上を実現した。原作の持ち味を丁寧に引き出すだけでなく、アニメならではの間の取り方やストーリーラインなどが絶妙だ。『機動戦士ガンダムユニコーン』や『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』のヒット作で知られる古橋一浩監督のドラマづくりの技が活かされた。

 そして、ヒットを生み出したもうひとつの大きな要素にビジネス・スキームがある点は見過ごされがちだ。『SPY×FAMILY』では今年4月のテレビ放送開始に向けて、当初から大型ヒットを狙った大掛かりな枠組みが準備されていた。

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