トリプルファイヤー吉田 DJで必ず“盛り上がらない”曲をかけ続ける理由
趣味が良いねと言われず、盛り上がりもしない
切なげな黒人女性っぽいボーカルに、オーケストラっぽいシンセが被さる。私の知らない洋楽をたくさん知っている姉が聴かせてくる曲を素直に良いと思えたことはほとんどなかったが、その時はなぜか甚く心に響いた。大人のいない車内で聴く都会的な「In This World」は、車窓を流れる田舎の街灯をまるで首都高のように錯覚させた。私はその時、理屈はわからないが、見たこともない楽しい出来事がこれからの未来で無数に待ち受けているのを直感したのである。
今でも「In This World」を聴けば、あの時の風景、高揚感を思い出す。DJで流してひとりでグッときているが、「この曲いいね」なんて感想をもらったことは一度もない。あの時都会的に感じた「In This World」のシンセも今ではなんだか古臭く響く。現代の雰囲気になじまない、時代が一周していないタイプの古さがある気がする。現在日本でこの曲をDJでかけても人から趣味が良いねとは言われないし、盛り上がりもしない。それでも、私のDJを誰も聴かずチャラいコールがおこなわれているようなバーの片隅に立ち、瓶に入れたメッセージをそっと海に流すような気持ちで「In This World」をかけている。
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