トリプルファイヤー吉田 DJで必ず“盛り上がらない”曲をかけ続ける理由

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DJが何をしているのか未だによくわからない

 バンド「トリプルファイヤー」のボーカルを務め、『今日は寝るのが一番よかった』など執筆業にも励む吉田靖直氏。不慣れなDJイベントに呼び立てられた彼が流すのは、10代の頃に姉が教えてくれたあの名曲。そこに広がる思い出の景色とは。

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 ときどきDJとして身内の小さなイベントに呼ばれることがある。私にDJの心得なぞは全くない。上手なDJは曲がかかっている間も絶えず何かのつまみをいじっているが、あれが何をやっているのか、何の意味があるのか、未だによくわかっていない。

 ただ、DJがかけた方がいいとされている曲の傾向は何となくわかる。音楽通がうなるような趣味が良い曲、もしくはノリの良いダンスミュージックや昔はやったJ-POPなど、みんなが盛り上がれる曲。友達のDJを見ていると、このどちらかに当てはまる曲をかけているように思う。

 私も以前はそういった曲をかけようと頑張ってみたこともあるが、いつしか面倒になりやめてしまった。どうせ私のDJなど誰も聴いていない。

2人の姉とのドライブで

 そんな私が最近数合わせのDJで呼ばれるたび流しているのが、Mobyの「In This World」という曲だ。Mobyはアメリカのクラブ系のミュージシャンで、世界的にはめちゃくちゃ売れているらしいが、周りでMobyを好きだという人に会ったことがない。

「In This World」が収録されている「18」というアルバムは今から約20年前に発売された。

 私には10歳ほど年上の姉が2人いて、私が中学2年生のある夏の夜、当時免許を取りたての下の姉がドライブがてら車で30分ほどのところにある「ロッキー」というレンタルビデオ屋へ連れて行ってくれたことがある。そのときの姉2人と私だけで車に乗っている状況をとても不思議に感じたことを今でも覚えている。親世代の大人の運転する車にしか乗ったことがなかった私は、子供たちだけで夜中に抜け出し何か悪いことをしているような気がしてドキドキした。

 帰り道、レンタルしたブランキー・ジェット・シティーのCDの歌詞カードを窓から入る灯りに照らして見ていた時。姉が唐突にカーコンポで流したのが「In This World」だった。

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