日テレ藤井アナに後輩から送られてきたDVDの狙いとは 先輩に質問をするときに“気を付けるべきこと”
「背中を見て覚えろ」はNG
新人や後輩に対して「仕事は背中を見て覚えろ」と言い放って済んだのはもう昔の話。
そんな態度でのぞんだら、「マニュアルください」と言われるのならまだマシで、下手をするとパワハラだと言われかねないのが昨今の職場事情である。そんな状況から、新人に聞かれたらなるべく丁寧に接して、わかりやすく説明する、というのを基本としている方も多いことだろう。
ただし、聞かれる側からすると、どこまで親身になるべきか、もまた難しい。
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(1)単にわからないことを自分で調べないで質問してくる
(2)本当に先輩のスキルを学びたいと思って質問してくる
(3)質問されると嬉しそうなんで、ご機嫌取りの意味も込めて質問してくる
さまざまな動機が想定可能である。
(1)の相手に何でも説明するのがいいのか、(2)だと思ったら実は(3)で、「あの人の話、長いんだよ」と思われていないか。
先輩、上司の悩みも尽きないのである。
日本テレビの人気アナウンサー、藤井貴彦さんが入社したのは1994年のこと。当時はまだ先輩に何かを教えてもらうことのハードルが高く、気軽に質問できるような雰囲気ではなかった、という(『伝わる仕組み―毎日の会話が変わる51のルール―』藤井貴彦著、以下引用は同書より)。
「特に専門技術が求められる職種においては、職人から技術を教えてもらう神聖さを理解できない人が質問した場合、本当の答えは決してもらえませんでした」
本気かどうかは一目瞭然
つまり(1)、(3)の気持ちで先輩に質問しても相手にされなかったということになる。
ではそれらと(2)とをどう区別するのか。先輩は後輩の本気度をどこで測るのか。「神聖さを理解」しているかどうかは見極められるのか。
藤井さんはこうつづっている。
「この『神聖さの理解』は専門職の世界にとどまらず、時代も職種も超えたキーワードなのではないかと思います。わからないからとりあえず誰かに聞いてみようという後輩と、どうしてもわからないから教えてもらいたいという後輩の違いは、先輩から見れば一目瞭然だからです。
その違いはどこにあるかといえば、先輩の仕事ぶりや経験に対するリスペクトがあるかどうかです」
そして「一目瞭然」の例として、次のようなエピソードを紹介する。
「ここで系列テレビ局の後輩アナウンサーから届いた小包の話をさせてください。
日本テレビは年末年始に、全国高校サッカー選手権大会の中継を行っています。その中継のために全国の日本テレビ系各局のアナウンサーが東京に集まるのですが、その中には何十年も携わっているベテランもいれば、今年が初めてという若手もいて、その垣根を越えた師弟関係が生まれます。
実はそんな若手の一人が、年末から始まる全国大会の前に、『皆さんのように実況がうまくなりたいので、私の実況を見てもらえませんか』と、DVDを小包で送ってきたのです。
包みを開けると、試合の収録されたDVDとともに、自分が何に悩んでいるか、実況のどこがうまくいかないのかなど、厳しい自己分析をしたためた紙が入っていました。仕事への真剣さと、熱意が伝わってきます。こうなれば、私も他の仕事より優先して実況へのアドバイスをしてあげたくなります。
実際に私は、A4サイズで10枚ほどの詳細な実況チェックを送り返しました。これはなかなか時間のかかる作業ではありましたが、コストパフォーマンスを超えた『やりがい』がそこにはあったのです。
後日、その後輩から深い感謝の言葉とともに、地元名産『いぶりがっこ』が届きました。高額なものではないということでしたが、この仕事を大切に思う気持ちと、先輩から経験をもらうことへの感謝が伝わってきました。
こんなふうに気持ちを伝えることができれば、先輩は自分の持っている全てのものを手渡してくれるはずです。普段から一緒に仕事をしている先輩に対しては、改めて感謝やリスペクトをしづらいかもしれませんが、そのありがたさを感じられた時、新たな道が開けていくはずです」
引っ込み思案でも進歩できる
このようなアドバイスを聞いて、なるほどと思う方もいれば、「いや、うちの先輩は藤井さんみたいな人格者ではない」とか「とてもそんなふうに先輩に積極的にアプローチできない」という方もいることだろう。実は藤井さんも、「先輩の懐に飛び込むのが苦手」な若手だったのだという。しかし、それはそれで自身の独自の成長にもつながった、と振り返っている。
当時、藤井さんが苦手としていたのは、サッカーのコーナーキックの実況だった。ゴール前に蹴りこまれたボールを誰がシュートしたのか、誰がクリアしたのかが、どうしても実況できなかったのだ。
「今考えると、一度先輩に聞いてみたらよかったなあとは思うのですが、私にはそれができませんでした」
そこで藤井さんはコーナーキックのシーンだけをたくさん集めたビデオを作り、何度も見返した。3日ほど経って、自分なりの選手の名前をほぼ言い当てるコツを見出すことに成功したという。
この経験から藤井さんはこう語る。
「お伝えしたかったのは、先輩に聞く前に必死で考えるという行動が、自分のストロングポイントを生み出すこともあるという例です。
最近の先輩は何でも教えてくれますし、実際に優しくアドバイスをしてくれると思います。ただ、先輩に聞いていろいろなことがわかったとしても、先輩を追い越すことはできません。本当に飛び抜けた存在を目指すのであれば、人生のどこかの時点で泥臭い努力が必要になってくるのではないでしょうか」
新人たちもそろそろ誰をお手本、目標とすべきか見えて来る時期。各地の職場でいろいろな形の技能伝承が始まっていることだろう。
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※『伝わる仕組み―毎日の会話が変わる51のルール―』より一部を抜粋して構成。
藤井貴彦(ふじいたかひこ)
1971年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学環境情報学部卒。1994年日本テレビ入社。スポーツ実況アナウンサーとして、サッカー日本代表戦、高校サッカー選手権決勝、クラブワールドカップ決勝など、数々の試合を実況。2010年4月からは夕方の報道番組「news every.」のメインキャスターを務め、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨などの際には、自ら現地に入って被災地の現状を伝えてきた。新型コロナウイルス報道では、視聴者に寄り添った呼びかけを続けて注目された。