「爆死」するドラマが減ってきたワケ 試聴スタイルに変化…視聴率の真実
番組の評価基準が世帯視聴率だけだったのは2年前までの話。今のテレビ局や代理店は個人視聴率、コア視聴率(13歳~49歳までの個人視聴率)、録画も含めた総合視聴率を全て判断材料にしている。すると「爆死」などと呼ぶべきドラマがほとんど存在しない事実が浮かび上がる(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)。
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民放の社屋内に入ると、「高視聴率御礼!〜%」という貼り紙が目に飛び込む。民放名物だ。この紙に記載される視聴率も個人視聴率とコア視聴率が中心になってきた。
また、なぜか論じられないが、午後10時台のドラマに世帯視聴率10%を超える作品がなくなってから久しい。つまらない作品ばかりになったからではない。ライフスタイルの変化である。
その分、午後10時台のドラマは録画組を含めた総合視聴率(世帯と個人)が高い。木村拓哉(49)主演のテレビ朝日「未来への10カウント」は木曜午後9時台だが、これも総合視聴率が高い。
世帯視聴率だけ見て「キムタクのドラマの視聴率が1ケタに陥落」など騒ぐこと自体、もう時代に合っていない。メートル法が導入されたにもかかわらず、いつまでも尺貫法に拘るようなものだ。
プライム帯(午後7時~同11時)の総合視聴率(世帯と個人)の上位5作品は次の通り(4月18日~同24日)。世帯視聴率が低くてもドラマは観られていることが分かる。
■「鎌倉殿の13人」(NHK)総合世帯20.6%、同個人12.0%、リアルタイムの世帯12.9%、同個人7.6%
■「マイファミリー」(TBS)総合世帯20.2%、同個人11.7%。リアルタイムの世帯11.9%、同個人7.1%
■「元彼の遺言状」(フジテレビ)総合世帯20.2%、同個人11.5%。リアルタイムの世帯10.3%、同個人5.9%
■「未来への10カウント」(テレ朝)総合世帯16.5%、同個人9.4%。リアルタイムの世帯10.5%、同個人5.8%
■「インビジブル」(TBS)総合世帯15.5%、同個人8.5%。リアルタイムの世帯7.0%、同個人3.8%
ここで、あることに気づく。総合世帯視聴率は1990年代の世帯視聴率の数字とほとんど変わらない。
「元彼の遺言状」の総合世帯視聴率も1990年代の月9の水準とほぼ一緒。ほかの大半のドラマも総合世帯視聴率は10%を軽くオーバーしている。
「インビジブル」に至っては録画組のほうが多数派なのである。リアルタイムの世帯視聴率が7.0%、同個人が3.8%である一方、録画によるタイムシフト世帯視聴率は8.9%、同個人は4.8%。リアルタイムの世帯視聴率だけでドラマを語ることに無理があるのが分かる。
「インビジブル」は金曜午後10時台。前作「妻、小学生になる。」もリアルタイムの視聴率は低く、総合視聴率は良かった。この放送枠の特徴である。週末の夜である上、裏番組にファミリー向けに特化した「金曜ロードショー」(日本テレビ)があることが大きい。
言うまでもないが視聴率が全てではない。世界的に評価が高い脚本家・坂元裕二氏(55)や昭和を代表する脚本家である山田太一氏(87)の作品が爆発的な視聴率を得たことはほとんどない。山田氏は「高視聴率など目指したことがありません」と笑っていた。
視聴率は「質」を表すものではなく、単純に「どれくらいの人が観たか」を表す数値。そのうえ、まだ数では放送にはるかに及ばないが、TVerなどの配信でドラマを観る人も増えている。
半面、「視聴率なんて間違ってるんだ」という主張も荒っぽい。総合視聴率やコア視聴率まで見ると、評判高いドラマは視聴率も一定水準に達していることが分かる。
世帯視聴率しか見ないから誤解や評価の歪みが生じる。誰かが「素晴らしい」と思ったドラマは観られているのだ。
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