泥棒を“あだ名”で呼ぶ深いワケを元刑事が解説 「レインマン」「スパイダーマン」で逮捕率アップ?
捜査員の士気を上げる
「あだ名は、それぞれの泥棒に特有な“手口”に由来していることが多いんです。スリであれば、“ケツパーの~”、“高町の~”。ケツパーはズボンの尻ポケットから財布を抜き取る手口、“高町”は寺社仏閣を指す言葉で、主に縁日でスリを働く者のこと。他にも、金庫破りなら“金庫の~”や“搬出の~”などのあだ名がありました。搬出というのは、現場で金庫を開けるのではなく、外に持ち出す手口です」
それにしても、なぜ窃盗事件を追う捜査員たちは泥棒をあだ名で呼ぶのか。
「あだ名の多くが手口に由来しているので、本名で呼ばれるよりも頭に入るし、捜査員の間で意識を共有しやすい。また、プロの窃盗犯は余罪が多く、取り調べが終わるまで半年ほどかかることも少なくありません。そんな時、あだ名がつくような“有名人”を追っていると思うと、捜査員の士気も上がるんですね。とりわけ、職業泥棒は慣れ親しんだ手口で犯行を繰り返します。刑務所で他の泥棒から教わって他の手口に変えても長続きしない。それはプロ野球選手が他の選手のフォームを真似るようなもの。緊張感のなかで犯行に及ぶため、やはり得意とするやり方に戻ってしまう。つまり、手口は泥棒の性質そのものを表している。だからこそ、捜査員の間では泥棒の特徴を掴んだあだ名が用いられるわけです」
新幹線のグリーン車ばかりを狙う
さらに、小川氏の記憶に残るあだ名を挙げてもらうと、
「東京駅から新幹線に乗り込んで、新横浜で降りるまでに“仕事”をこなす“緑の~”という男がいました。緑とはグリーン車のこと。当時は新横浜まで検札が来なかったので、新幹線の乗車券を買わなくても犯行に及ぶことができた。乗客は自分の座席に着くと、ジャケットを置いたまま買い物や喫煙に立つことがあり、その間に上着の内ポケットやカバンに入った財布を抜き取るんです。グリーン車を狙うのは客層が良いことに加え、乗客の数が少ないからですね。新横浜で降りると今度は東京駅行きの新幹線に乗ってトンボ帰り。東京駅で降りる直前にトイレに立つ客の荷物を狙っていました」
また、ひと言で空き巣といっても、その手口は様々だ。
「空き巣に入られたお宅に駆けつけると、引き出しという引き出しがぶちまけられ、足の踏み場もないようなケースも珍しくありません。その一方で、住民が全く空き巣被害に気づかないこともある。“復元の~”と呼ばれる泥棒は、ガラス窓を小さく破って侵入し、物色した後に部屋を元通りの状態に整理していました。部屋に荒らされた様子がないので住民が帰宅しても空き巣被害に遭ったとは思わない。冬場に空き巣に入られた事件では、住民が“どうもすきま風が入って来るな”と思って窓を確認し、被害から1週間後にようやくクレセント錠の周辺が破られていたことが分かった。それこそ、犯行から1ヵ月後に通報が寄せられたこともあります。まさに“復元”の名にふさわしい犯行でした」
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