山下智久「正直不動産」は隠れた名作 今どき珍しいドラマと言えるワケ
描かれる「働く意味」
働く意味も考えさせる。第5話。ライバルのミネルヴァ不動産が、永瀬の部下・月下咲良(福原遥)の父・昌也(加藤雅也)に対し、東京・小金井の3LDKのタワーマンションを9180万円で売ろうとした。築5年でリノベーション済みの中古物件である。
築浅なのにリノベーションしていることから永瀬は不審の目を向ける。欠陥住宅だと睨む。ウソつきだったころから能力はあるのだ。永瀬は住宅診断を行うインスペクター・町村隆司(中村靖日)に調査を依頼する。
ところが町村はミネルヴァ不動産に鼻薬を嗅がせられていた。今後、仕事をまわすことを条件に、不都合な点があっても見逃すよう依頼されていたのだ。こういう大人の取引が珍しくないのはご存じの通りだ。
この裏交渉により、床下の重大な欠陥が隠されようとした。町村はかつての永瀬と同じくウソつきになろうとしていた。生活のためだろう。
だが、正直になった永瀬が黙っていなかった。
「私の仕事は家を売ることです。家の欠陥を見つけることではありません。町村さん、それはあなたの仕事ではないんですか」
この言葉で町村のプライドは蘇る。
永瀬と咲良がバールで床を剥がしたところ、現れたのはヒビ割れたコンクリート。それを見た町村は「最悪、床が抜けてもおかしくないです」と冷静に指摘する。ミネルヴァ不動産が町村に文句を言うと、「誰に何を言われようと、私は私の仕事をするだけです」と静かに言い返した。永瀬の正直ぶりが周囲に伝播した。
正直者になる前はカネのために働いていた永瀬。今後、何を求めて働くのだろうか。その答えは第1話で既に明かされている。
アパートのサブリース契約を結ばせた石田は50年以上も和菓子店をやっていたが、ちっとも儲からなかった。それでも店を続けた理由が永瀬には皆目分からなかった。
その疑問に石田はこう答える。
「大した理由じゃない。オレの菓子食うと、みんな幸せそうな顔するんだ。だから続けられた」
この時点ではカネのために働いていた永瀬は「それは1円にもなりませんね」と首を捻るが、石田は「でも仕事っていうのはそういうものだ」と笑った。
今、永瀬もまた客の喜ぶ顔を見るために働き始めている。
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