山下智久「正直不動産」は隠れた名作 今どき珍しいドラマと言えるワケ
清々しい永瀬の活躍
「正直不動産」の主人公は登坂不動産に勤務する営業マン・永瀬財地(山下智久)。売上高1位のエース社員ながら、社内で「ライアー永瀬」と陰口を叩かれていた。自分の成績を伸ばすことしか頭になく、客にウソを並べ立てていたからだ。
そこまでして働く目的はカネにほかならない。登坂不動産は基本給の割合が低く、成績を上げることによって高額のインセンティブが得られる給与制度になっていたためだ。
もっとも、永瀬のウソつき生活は第1話で終わる。やっぱりウソをついてアパートのサブリース契約を結ばせた和菓子店主・石田努(山崎努)の住宅敷地内にあった祠をぶっ壊したところ、その祟りでバカが付くほど正直な人間になってしまったのだ。
その後、自分のウソによってアパート経営にリスクがないと信じ込んでいた石田に対しては「リスクなんて当然あるに決まってるじゃないですか」と言い放つ。石田は茫然自失となる。
第3話では、夫の警察官退職後に駄菓子屋を開こうとしていた夫婦に計画の甘さを指摘する。妻のほうが高収入で高級マンションをペアローンで購入しようとしている夫婦には将来離婚した際のリスクを説く。どちらからも怒られた。そりゃそうだ。
バカ正直は社内でも同じ。イケイケの上司・大河真澄(長谷川忍)から飲みに誘われると、「激安居酒屋で激安ハイボールおごるくらいで恩着せがましいんだよ」と詰り、断る。やっぱり怒られた。
そんな永瀬をクスクス笑いながら観ていると、ふと考えさせられる。働く人間の大半は過去の永瀬と同じくウソをつきながら日々を過ごしている。
「コイツは無能で卑劣だ」と、軽蔑している上司であろうが、その言葉には逆らえない。顔も見たくない同僚に笑顔で接しなくてはならない時もある。
過去の永瀬ほどではないが、働く人間にはウソが求められる場面がある。思ったことをそのまま口にしていたら、変わり者扱いされるのがオチ。だから正直な永瀬の奮闘ぶりは観ていて清々しい。「こうありたい」と思うようになる。
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