知床遊覧船、捜索費用の数十億円を国が負担か 元船長が新たな“不正”を証言
勝手に“バラスト下ろし”
桂田社長は「経営計画発表にあたって」(掲載の写真)と題する文章で、次のように記している。
〈地震・津波・原子力災害や大風(ママ)で夢が破壊される確率の低い安全な場所「知床ウトロ」で一緒に基盤を作り世界に発信しよう!(中略)社長が先頭に立って汗を掻いて未来を創ります〉
だが、自らが知床観光業の信頼を破壊し、容易には修復されざる傷を残した。
前出の元船長が、さらに重大な問題を指摘する。それはKAZU Iの「船舶検査証書」に記載されている〈船尾船底に搭載したバラスト(砂袋1・5トン)の移動を禁止する〉という運航条件に関わるものだ。
「KAZU Iは船体前方にエンジンが積まれていて、バランスをとるためのバラスト、要は“重り”の砂袋を船尾に積まなきゃいけない。なのに、豊田は操船しづらいなどと言って、そのバラストを勝手に下ろしてしまっていたんです」
だとすると、KAZU Iは前方に重心が偏っていたはずだ。当然、船首は沈み込む。するとどうなるか。
KAZU Iからの救助要請は“船首が浸水し、エンジンも使えない”というものだった――。
元船長は桂田社長に、砂袋を下ろすのを止めさせるよう忠告していた、と語る。
「だけど、社長がおざなりな注意しかしないから。豊田も改めようとしなかった。仕方がないので、昨年夏ごろ、自分は何度も国交省の運輸局とJCI(日本小型船舶検査機構)に通報して、会社に監査に入ってくれと頼んだんですよ」
国交省にも責任が
しかしながら、国交省と、検査代行機関であるJCIの仕事は信じられないほどずさんだった。
「検査や監査に入る時、JCIは対象の事業者に事前に通告しちゃうんですよ。豊田はJCIの職員が来る時だけバラストを船に戻す。だから、検査に引っかからなかった。検査が終われば、また重りを下ろしちゃう。完全なるイタチごっこでしたよ」(同)
JCIは事故3日前にKAZU Iを検査し、船体について“異常なし”と判断したが、適正なチェックはなされていたのか。
加えてJCIには、無線アンテナの破損を見逃し、船長の通信手段として本来望ましい衛星電話ではなく、携帯電話を使うことを認めた致命的不首尾もある。そのうえ、auの電波が事故のあった海域で「圏外」だったのは前述の通りだ。
先の社会部記者の話。
「生命線のはずの無線が確保されていない状態だったのに、運航を認めるというのがおかしい。衛星電話も使えないうえ、代替として使用を認めた携帯電話すら電波が入らないとあっては、検査体制は適切だったといえるのか疑問があります」
当然、JCIのみならず、検査を代行させた国交省も責任を免れないだろう。
国交省に質すと、
「漁業関係者への聞き取りから、au回線であれば旅客海域であってもつながること、豊田船長自身が携帯電話であっても連絡が取れると主張していたことから、JCIは検査では問題ないと判断したようです」(海事局検査測度課)
当事者意識に欠ける、まるで責任逃れのような弁だ。
知るほどにまさしく「人災」。桂田社長は取材にノーコメントを貫き、父親の鉄三氏に接触しても、
「まだ、(息子と)話をしていませんから」
と、逃げを打つ。
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