今期ドラマで注目すべき三人は? 「持続可能な恋ですか?」で婚活のリアルを表現したシソンヌ・じろう

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 ここ数年、うすうす感じていたことだが、今春で顕著になった。それは「猛烈な勢いでテレビ離れしている」ことだ。私の周囲ではもう誰も地上波を観ていない。テレビ番組の記事を書く週刊誌記者もテレビなんか観ちゃいないし、テレビ局の人ですらテレビをほとんど観ていない。話題に上るのは、ほぼほぼNetflixかYouTube。ゴールデンウイーク中は「ヤンジャン!」の「ゴールデンカムイ」全編一気読みに流れていたっけ。

 地上波のドラマについて原稿を書いても「知らねー」のひと言で一蹴される時代が来てもうた。わなわなする春。ま、今期はちょっと役者にしぼって書こうかと。ドラマ本編はさておき、気になった人をまとめておく。

 まずは、寂しげで物憂げ、薄幸な役が多かった松本若菜。「悪いモノや黒い背景を全部抜いた沢尻エリカ」という印象もあるが、彼女の涙の演技は絶品。今期は「やんごとなき一族」(フジ)で新境地を開いた。

 家督継承と相続の権利を次男にかっさらわれた長男の嫁を演じているのだが、富裕層特有の選民意識丸出しな口の悪さがしっくりハマっている。差別的な感情と賢さ(語彙(ごい)力)を掛け合わせた金持ちって、おそろしく口が悪いんだよね。超絶長い罵詈雑言を一気にまくしたてる姿が新鮮だったし、コミカルな表情と仕草で魅せるいびり芸が秀逸で。異様なしきたり、前近代的な慣習に拘る超富裕層の世界で生き抜く覚悟と矜持まで感じさせた若菜。「のこのこにょきにょきにょっきっきー!」なる馬鹿げたセリフには思わず噴いたが、令和版「牡丹と薔薇」と思って愛でる。7月には主演ドラマも控えている若菜。彼女には期待しかないっす。

 お次はシソンヌのふたり。「正直不動産」(NHK)でパワハラ営業部長を演じている長谷川忍。阿漕(あこぎ)な不動産営業の裏事情を描く、非常に興味深い作品だ。営業成績の悪い社員を叱咤、ムチャブリと自慢話に満ちた朝礼で、人望もすこぶる薄そうだが、腹黒の社長(草刈正雄)には全力でこびへつらう。威圧感ある声と体格なのになんだか憎めない。絵に描いたような小物感のおかげで、ブラック企業でパワハラが生じる構図がよくわかる。彼だけが悪いのではなく、会社全体の問題だわな。

 そして、相方のじろうは「持続可能な恋ですか?」(TBS)にゲストで出演。結婚相談所の客の役で、主人公(上野樹里)とAI診断でマッチングした男性だった。大学でダムの研究をしていて、英語・スペイン語・フランス語を話し、海外旅行と脂質の少ない和菓子、特にあんこが好きで、ハイスペックな自分も結構好き。紆余曲折あって、結婚相談所に怒りをぶつけに来る役どころだった。

 このドラマは父娘の婚活を描く作品だが、婚活市場の生々しさや虚しさがない。じろうが出てきて、婚活のリアルがにじみ出た感もある。2年で58人に断られ、目的も方向性も見失っているが、プライドだけは高め安定のリアル。うまくいかない理由は自明。じろうの悲痛な叫びはがっつりかっさらったよ、心を。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年5月19日号掲載

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