戦後、徴用工の未払い賃金を回収した「朝連」 労働者に返還されず政治資金に転用?

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おびえて頼りにならない役人

 林はこう回想する。

「製鉄所だけでなく、こういう要求を、彼らは県内のあちこちでやり出した。もっとも小さな鉱山で彼らに対して強引な使役をしたところもあったらしいね。

 外交部長というのが、立派な腕章をつけており、額に向こう傷があって、その上、話すときには、持って来た手錠まで眼の前に出してね、脅迫するわけですよ。凄かった。

『日本人は……われわれ朝鮮人を強制労働させたんだぞ』

 このようにして、県内のあちこちで金を出させたそうで……ついに大橋の日鐵鉱山でも、当時の金で三十万円位出したのですよ。

 だから、東北でもっとも大きな企業の釜鐵に金を出させなかったら『話にもならん』とそう思ってるわけです。

 額?たしか百何十万円か……を要求したね」(同)

 だが、林はそれを拒絶した。

「『日鐵は公傷者に対する慰労金は日本人も徴用労務者も、全部同一の規則、同一の規準で支払っている。朝鮮人なるがゆえに差別して払っていたわけではないから、そういうことはできない』

 若かったんだな、僕はそう言った。

 だが、それでも彼らはあきらめずに毎月、一、二回は団体交渉にきた」(同)

 林は県に相談するが、「役人はおびえていて頼りにならない」。

「そこで、日鐵本社や労働省……いや当時はまだ内務省だったかな。いろいろ相談の上、結局、裁判所に何十万円だったか供託したんだが、それが日本での供託金第一号だった」(同)

組織を潰すための策略

 未払い賃金をめぐっては、朝連以外の組織も目をつけ、争奪戦が行われていた。北海道の朝鮮民族統一同盟(朝連の一組織)の創立メンバーで、共産党でも活躍した金興坤が「怒りの海峡―ある在日朝鮮人の戦後史」(「季刊人間雑誌」草風館)に記している。

 帰国する同胞を援護するという触れ込みで、「朝鮮建国準備委員会」という団体が北海道にやってきた。彼らは、金から炭鉱の使用者や朝鮮人組織、そこで働いていた朝鮮人の情報などを聞き出した上で、

「夕張、美唄をはじめ歌志内、赤平など大小の鉱山を訪問した。が、同胞を訪ねるのではなく会社側の事務所を訪ねては、死亡者、逃避者その他の労働賃金、傷病者手当金、保険金など、さまざまな名目で取れるだけ金を会社側から取り、同時に旧協和会系幹部から多額の寄付金を集めていた」

 金はだまされたのである。その上、

「我同盟関係者の欠点を探し集め、統一同盟はアカだのギャングだのと司令部に密告したため、安先浩委員長はじめ、強制連行で連れてこられた家族のいない幹部八名が強制送還されてしまった。一時期に八名もの幹部を失った我統一同盟は、まったく手足をもがれたのと同様であった」(同)

 金は、一連の動きは、組織を潰すための策略だったと考えている。

回収した賃金の行方

 さて、朝連は回収した未払い賃金などのお金を、帰還していった労働者に届けたのだろうか。

 朝連の集計だけでも4万3314名もいる。しかも社会は混乱し、その後、朝鮮半島は分断されてしまうから、容易なことではない。

 当時のことを知る人々を訪ねて歩いたが、なかなか明解な回答はいただけなかった。その中で、

「帰郷した同胞にお金を返金しようにも居所がわからなかったので朝連に留保され、一部政治活動に運用したのであろう」

 と、かつて在日本朝鮮人連盟支部と共産党支部を掛け持ちしていた人物が語った。

 返還されたと考える朝連関係者も研究者もおらず、記録もない。それどころか田駿は『朝総連研究』でこうも書いているのだ。

「帰国者の不動産を管理するという名目でその権利書を引継ぎ委任され、これを処分して朝連財政に投入した。ここには帰国者の寄付的心情も多少は含まれていたことは見てとれるが、その額は巨額に達した」

 公安調査庁の坪井豊吉も、帰国していった同胞の財産を朝連が管理処分したことについて法務研究報告書で触れている。

 戦前から長年日本で暮らした朝鮮人は、多くの財産を日本に残したことだろう。それを管理し、資金としたのも朝連だった。そして彼らの活動と一体化していた日本共産党をも支えたのである。

(敬称略)

近現代史検証研究会 東郷一馬

週刊新潮 2022年5月5・12日号掲載

短期集中連載「党史には出てこない不都合な真実 『共産党』再建資金に『朝鮮人徴用工』の未払い賃金」より

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