〈ちむどんどん〉もしや兄妹に秘密あり?沖縄編がパッとしなかった理由を探る

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 比嘉家のトラブルメーカー・長男の賢秀(竜星涼)がプロボクサーになり、一家の重圧になっていた借金が一掃された。4月11日に始まったNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」は新局面を迎えた。苦戦していた視聴率も回復するか。

「ちむどんどん」が面白くなってきた。だが、それは賢秀の送金によって、比嘉家の借金完済の目途が付いた第24話からではない。

 比嘉家の母・優子を演じている仲間由紀恵(42)が、真に迫る演技を見せた第23回からだ。

 仲間の見せ場はこれまで少なかった。型通りの演技しか披露する機会が与えられていなかった。それは「苦労をする母」、「やさしい母」、「子供たちに甘い母」である。仲間は主演級の女優になって長いのだから、勿体ない使い方だった。

 この回は違った。優子は借金先で銀行融資の保証人でもある大叔父の賢吉(石丸謙二郎)に対し、2女でヒロイン・暢子(黒島結菜)の高校卒業後の上京を許してくれるよう懇願した。

 東京のレストランに勤めるのは暢子の夢。けれど賢吉は借金返済のマイナスになると考え、それを許さなかった。

 優子は賢吉の態度を軟化させるため、借金の一部を返済する。勤務先の共同売店から300ドル(当時約10万8000円)前借りした。

 心苦しくなった暢子は「もういいよ、お母ちゃん。ウチはもう諦めた」と口にする。夢を捨てようとした。

 しかし今度は優子が許さなかった。

「あんたが諦めてもウチは諦めないよ!」

 優子は賢吉に対し、土下座して訴えた。

「お願いします。暢子を東京に。たった一度の人生、やりたいことをやらせてあげたいんです」

 胸を揺さぶられるような演技だった。子供達の願いをかなえることが自分の使命だと考えている優子の強い意志が伝わってきた。

 優子自身は米軍による那覇市への無差別大規模爆撃「10・10空襲」(1944年)によって両親を失ったことから、やりたいことが出来なかったのだろう。そう想像させた。

 この回は長女の小学校教師・良子役の川口春奈(27)の演技も出色だった。良子も学校から300ドル借りた。やはり暢子のため。校長から心配されたが、晴れ晴れとした表情をしていた。家族のために役立つことがうれしかったのだ。

 3女で高1の歌子を演じる上白石萌歌(22)の演技も良かった。病弱であるにもかかわらず、優子に向かって高校を中退して働きたいと言い出した。

「ウチ、なんにも出来ない。いつもみんなに迷惑かけてばかり」(歌子)

 やはり暢子のためである。悄然とした表情で高校中退を口にする歌子を観ていると、切なくなった。

 借金と賢秀が起こすトラブルのせいでギスギスしがちだった比嘉家が、暢子の夢の実現という目標に向かって結束した。この朝ドラのテーマの1つである「支えあう美しい家族」が鮮明になった。今後が楽しみになってきた。

 そもそも面白くなるはずなのだ。沖縄本土復帰50年に合わせて放送される沖縄の家族の50年史。この大筋だけでもドラマチックなのだから。

クビを傾げる展開や設定

 けれど、これまでの視聴率(4月11日の初回から5月10日の第22話)の平均値は世帯が15.4%で個人が8.6%。視聴率が全てではないのは言うまでもないが、前作「カムカムエヴリバディ」の全話平均は世帯17.1%で個人9.6%。前々作「おかえりモネ」は同世帯16.3%で個人9.0%だったことを考えると、ちょっと物足りなかった。録画を含めた総合世帯視聴率も普段より3~4%低い。

 もっとも、その責任が出演陣にあるとは思えない。朝ドラにはうまい人が揃うからだ。

 ドラマは「1に脚本、2に役者、3に演出」。この朝ドラが出遅れた理由も脚本にあるのではないか。クビを傾げる展開や設定があった。

 第1に賢秀のキャラクター設定とその周辺のエピソードである。

 1964年だった第6回、父・賢三(大森南朋)が心臓発作で亡くなる間際に、賢秀はこう言い残された。

「お母ちゃんとみんな、頼むよ……」。賢秀は「父ちゃん。あとは任せろ! 全部やるからよ」と力強く答えた。

 その約束が守り切れないのは仕方がない。まだ中3だったのだから。

 半面、優子が工事現場で重労働を始めているのに、家事当番を平気でサボるようになったころから賢秀のダメっぷりが目に余り始める。止まらなくなった。

 第7話では比嘉家の厳しい経済事情が分かっていながら、運動会用のズックをねだった。良子も体操服がボロボロだったので買い換えて欲しいと訴えたものの、賢秀は「長男だから自分」と取り合わない。賢三との約束はさっそく破られた。

 結局、優子はズックも体操服も買ってあげたが、どちらも泥まみれになってしまう。ズックは破けてしまった。賢秀が飼いブタのアベベのいる小屋に置き忘れたためだ。

 この場面で気になったのは賢秀のミスよりエピソードの不自然さ。自分の新しいズックなら嬉々として持ち歩く可能性があるかもしれないが、どうして良子の体操着までブタ小屋に持っていく?

 その理由について脚本は突っ込んでいない。運動会で賢秀には裸足、良子には汚れた体操服で走らせたかっただけではないか。

 賢秀は高校に入ると、ボクシングとケンカに明け暮れた。結局、中退。那覇市内や名護市内で働くものの、どの仕事も長続きしなかった。

 近所の「とうふ砂川」の智(前田公輝)が孝行息子だから、余計に賢秀のダメっぷりが目立った。「愚兄賢妹」という設定にしたかったのは分かるものの、賢秀をもう少し愛すべき人物にしても良かった気がする。

 第18話、第19話で賢秀は通貨交換詐欺に遭った。詐欺に引っ掛かったこと自体はやむを得ない面がある。当時、本土復帰を前にした沖縄は情報不足で、類似の詐欺が頻発した。また賢秀は優子に楽をさせたくて引っ掛かってしまったのだから気の毒でもある。

 問題は事後処理。第21話。騙されたと分かった賢秀は名護市内のハンバーガー店「SUNSET BURGER」で酔って暴れた。店内を破壊し、山原高校の下地響子(片桐はいり)に苦痛を味合わせた。

 ところが「SUNSET BURGER」へ謝罪に出向いたのは優子と暢子。妹たちから非難されても「悪いのは我那覇(詐欺師)」とふて腐れ、悪びれる様子もない。

 教師の下地が自宅に抗議に来ると、隠れようとする始末。こういう時は大甘になる優子が賢秀に風呂敷を被せた。

 賢秀は「謝ると死んでしまう病」なのか? これでは感情移入しにくかった。

 プロボクサー・賢秀のデビューを共同売店店主・前田善一(山路和弘)が比嘉家に伝えに来た際、暢子は「信じられない」と驚愕した。それは観る側も同じだった。

 借金や賢秀の将来など比嘉家を覆う暗雲に気を揉んでいたが、それが一気にスピード解決した。あっけに取られた。

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