〈鎌倉殿の13人〉天才で傲慢な“モンスター”「菅田義経」の斬新さ

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三谷幸喜ならではの義経像

 菅田義経は、こうした先行する義経のイメージを覆してしまうのではなく、「天才」「幼稚」「世間知らず」「純粋」といった基本を残しながらも、さらにイメージを「上書き」する意図が込められているのではないだろうか。この「イメージを上書きする」というのは、脚本の三谷幸喜が歴史上の人物を描く際によく目にする手法だ。

 そもそも歴史そのものを愛する三谷は、歴史上の人物を描く際に独特のポリシーを持っているように感じる。従来の人物像をただ踏襲するのは、作家として受け入れがたい。しかし、史料などによって裏付けがあったり、長い年月をかけて積み重ねられた人物像を無視して、自分の物語に都合よく好き勝手に人物像を作り上げるのは避ける。なぜなら、それは創作が歴史を否定することにつながるからだ。

 歴史を踏まえながらリアリティを損なわないように創作をするというのは、歴史劇の王道の手法だろう。三谷幸喜という劇作家は、おそらくその姿勢を自分に強いているのではないだろうか。

 この「鎌倉殿の13人」において、源義経像は明らかに「上書き」されつつある。それは、従来の義経像にピカレスクヒーローという新たな装いを与えたものなのだ。

安田清人
1968年、福島生まれ。明治大学文学部史学地理学科で日本中世史を専攻。月刊『歴史読本』(新人物往来社)などの編集に携わり、現在は「三猿舎」代表。歴史関連編集、執筆、監修などを手掛けている。

デイリー新潮編集部

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