「アンドレの靴下も作ってあげて」 ジャイアント馬場とアンドレ・ザ・ジャイアントの絆を物語る逸話(小林信也)

  • ブックマーク

アンドレの靴下

 2005年1月、私は『人間G馬場 リーダーの条件』を執筆した。冒頭に馬場元子夫人の回想を記した。アンドレ・ザ・ジャイアントと馬場の心の絆を語る逸話。互いに現役生活の最晩年のころ。いつも裸足のアンドレを案じて、馬場が聞いた。

「なんで靴下を履かずにリング・シューズを履くんだ?」。するとアンドレは、

「ずっと前からそうだ。自分の履ける大きさの靴下なんてないから」と答えた。それを聞いた馬場はすぐ、「じゃあ、これを履いてみろよ」、愛用する特注の靴下を渡した。回想はこう続く。

〈馬場さんオリジナルの靴下を履いたアンドレは、「この靴下、すっごくいいよ」

 子どもみたいにうれしそうな顔でした。(中略)あんまりうれしそうに履いていたものだから、馬場さんは、

「アンドレの靴下も作ってあげてよ」

 と私に言うのです。それで、アンドレの靴下も注文しました。アンドレは翌年の二月に来る予定になっていました。

「二月は寒いから、アンドレもまた喜んでくれるだろうね」と馬場さんと話していたら、突然の報せが飛び込んできました。お正月に、フランスで、アンドレが亡くなったという悲しいニュースでした。アンドレに渡せないまま、その靴下はいまも我が家にあります〉

 野球部長から特注のスパイクを贈られて野球ができた、高校時代の感激を馬場はアンドレに分けてあげたのだろう。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

週刊新潮 2022年5月5・12日号掲載

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。