英米で再評価の「江戸川乱歩」「横溝正史」 なぜ今「エログロ」が必要とされるのか

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日本における探偵は「岡っ引き」?

 また、明治時代の探偵に密告者=裏切り者といったイメージがつきまとっているのは、当時の自由民権運動とも関係しています。明治16年に新潟県上越地方で起きた高田事件です。自由党の活動家たちを政府転覆容疑で大量逮捕した弾圧運動です。発端は党員になりすました刑事の潜入捜査による内部告発でした。ところがこれが冤罪だったので大問題になりました。その張本人が刑事=密偵だったわけです。

 ちなみに昔は、探偵とは刑事のことでした。言うまでもなく、英語のDetectiveにはその二つの意味があります。そもそも〈探偵〉という概念は日本語にありません。いわば明治維新以降の舶来品。Detectiveの“翻訳語”です。

 では、我が国における文明開化以前の探偵に相当する職業は? 岡っ引き、十手持ち、目明しです。銭形平次(野村胡堂)、神田三河町の半七(岡本綺堂)、人形佐七(横溝正史)が有名ですね。面白いのは、かれらが裏街道の顔役であることです。だから“親分”と呼ばれる。極端な話、岡っ引きの多くはかつて(あるいは現役の)極道だったわけです。

史実における世界初の探偵

 虚構ではなく史実における世界初の探偵をご存じでしょうか? フランスのフランソワ・ヴィドック(1775~1857年)です。かれは犯罪者でした。殺人以外はあらゆる犯罪に手を染めています。当然、なんども逮捕されましたが、そのたびに脱獄しています。根っからのワルでしたが、頭も良かった。したがって投獄・脱獄を繰り返すうちに学習しました。犯罪は割に合わないと。

 そこでまっとうな職に就きました。それがまたスゴイ。なんと警察官です。実質的には密偵・タレコミ屋。蛇の道は蛇というがごとく、裏社会や犯罪手口に精通したヴィドックは数々の手柄をあげ、最終的には国家警察パリ地区犯罪捜査局を創設して初代局長にまで昇りつめます。そしてパリ警察を退職後に開設したのが世界初の探偵事務所でした。

 このようにフランソワ・ヴィドックや岡っ引きの例からも明らかなように、探偵=密偵=犯罪者=忌まわしき存在といったイメージははなからついてまわっていたのです。

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