「補聴器は隠すことじゃない」 俳優・井上順が明かす、難聴で開けた新たな人生
補聴器をつけることで生まれた感謝
それにね、補聴器をつけてから、僕の中に新たな感謝の気持ちが生まれたんです。もちろん、ベストな耳の状態でお仕事ができればそれに越したことはありませんが、補聴器をつけていると公表してからは、聞こえやすいようにと僕に近寄って話してくれる人が増えました。申し訳なさのせいで人と距離を取ろうとしていた自分に、相手から近付いてきてくれる。そして、大きな声で話しかけてくれる。もう深く感謝するしかありません。
もちろん、補聴器をつけたからといって、完璧に音がクリアに聞こえるようになるわけではありません。逆に車のクラクションがものすごく大きく聞こえたり、お皿のぶつかる音が異様に響いたりすることもあります。でもそれは、技術者の方と相談して微調整できますし、あとは慣れていくしかない。僕にとって、もはや補聴器は身体の一部ですから。
補聴器で開けた「宇宙」
僕自身、今は三つの補聴器を使い分けています。一つは片耳用で、これはドラマや映画の撮影の時に、決まった方向から撮ってもらえれば補聴器が映らないようにと用意したものです。
二つ目は両耳用で、やっぱり両耳につけたほうが聞こえは良くて、この両耳用は音のボリュームを調整できる。だから、プライベートで大事な話をする時なんかはこれを使います。
三つ目は耳の穴の中にすっぽり収まって、つけているかいないかが分からないもの。撮影もあるインタビューのような時に使っています。
一つ目の補聴器をつけた時に「世界」が開けて、二つ目の補聴器をつけた時には「宇宙」が開けた。三つ目の補聴器で、もしボリューム調整ができるようになったらもう鬼に金棒です。実際、今それを作ってもらっている最中なんです。完成した時は宇宙よりもっと広い世界が開けるはずです。宇宙より広いものはない? 何を言っているのか、よく聞こえませんね~。なにせ僕、難聴なんでね。
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