肝臓・胆道・膵臓の「難治がん」との賢い闘い方2 「名医ランキング」の功罪と病院の選び方
外科医一人当たりの年間執刀件数
進藤:ただし、そうした資格があればそれだけで充分かというとそういうわけでもなく、技術の維持や手術手技に対する慣れ、習熟度という意味では外科医一人当たりの年間執刀件数も重要となってきます。例えば一年間で同じ100件の手術を行っている施設があったとして、10人の外科医がいるのか、2人のみでやっているのかでは、外科医一人当たりの年間の執刀件数は大きく違ってくるわけです。
私自身、他院での手術を含め、肝切除術だけでも年間150-170例を執刀していますが、そうした外科医個人としての執刀症例数はランキング本には書いてありません。施設のホームページなどを調べて、その施設の手術件数をスタッフ人数で割ってみると外科医一人当たりの執刀症例数がなんとなくわかります。いくら施設としての手術件数が多くても、それが外科医一人当たりの執刀症例数とは必ずしも比例するわけではないのです。
大場:特に高度な手術を受けるのであれば少なくとも執刀医には「高度技能専門医」資格は持っていてほしいということがよくわかりました。地方にいくと、単に消化器外科医の延長として、年間に数えるほどの肝切除や膵がんの手術をたまに行っている病院がよくあります。がん医療の質の均てん化(全国どこでもがんの標準的な専門医療を受けられるよう、医療技術等の格差の是正を図ること)が重要課題であることは明らかですが、言うは易しで、とくに外科手術領域では医療資源(人材)の偏在から地域格差が生じるのはやむを得ないのかもしれません。
どういった基準で病院を選べばよいのか
大場:一方で、忘れてはならないのは、2015年に群馬大学医学部附属病院旧第二外科で発覚した看過しがたい事案です。高難度の肝切除後、入院中に相次いで死亡例が続き、その死亡率はなんと15%以上だったと報告されています (日本外科学会合同委員会による医学的評価より) 。当事者らは、スタッフ2人のみで手術を行っていて、技能の不足に対して徹底的に省みることがなされず手術の死亡例を重ねていたようです。
進藤:我々の専門とする肝臓、胆道、膵臓のがんの分野は一つ間違えば患者さんの命を奪ってしまいかねない危険と隣り合わせの手術を扱う分野です。手術の前には想定されるリスクについて詳細な説明を行いますが、術前に説明をしたからと言って患者さんが命を落としてしまった場合の免罪符にはなりません。手術は「医療」という名目がなければ傷害行為に他ならず、究極的には自分を信じて任せてもらうしかないわけです。ですから我々もそれだけの覚悟を持って臨床をやっているわけで、そうでなければ手術の場で術者の位置に立つことは許されません。
大場:冒頭で触れた「よい病院ランキング」のような人気企画も、診療の専門性によって評価はだいぶ異なるのではないでしょうか。例えば、上位に選ばれる常連ブランド病院の中には、肝がんや膵がんのような難治がんを高いレベルで手術ができるような外科医はいないはずと訝しく思ってしまう施設もあります。患者さんには、ホスピタリティやアメニティなどの雰囲気ではなく医学の実力で勝負できるよい病院選びをしてほしいと思いますが、具体的にはどういった基準で病院を選べばよいでしょうか?
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