“令和の石立鉄男”という声も… 33歳「濱田岳」、最大の強みとは何?
ドラマで主演を張る俳優が二枚目ばかりになってしまった。昭和期は違った。その代表格は日本テレビ「水もれ甲介」(1974年)などで大人気を博した故・石立鉄男さんだ。もっとも、令和の石立さんになれる可能性を秘めた俳優もいる。4月上旬に終了した「カムカムエヴリバディ」で算太役を演じた濱田岳(33)である。
濱田岳は笑わせる芝居も泣かせる演技も出来る。20代、30代では滅多にいない存在だ。
得がたい俳優であることは仕事量を見ても分かる。この1年間で「カムカム」やTBS「日曜劇場 マイファミリー」(現在放送中)など6本のドラマに出演。そのうちテレビ東京「じゃない方の彼女」(2021年10月)は主演だった。
映画も「大怪獣のあとしまつ」(今年2月公開)など4本に登場した。引っ張りダコである。この状態が10年以上続いている。
濱田は9歳だった時に遊園地でスカウトされて芸能界入り。ほどなくしてダウンタウンの浜田雅功(58)が主演したTBSの連ドラ「ひとりぼっちの君に」でデビュー。すぐに注目を集め、「天才子役」と呼ばれる。
もっとも、いつの時代も天才子役の呼び名は乱発される。俳優としての真価が定まるのはミドルティーンから。濱田も16歳の時に出演したTBS「3年B組金八先生/第7シリーズ」(2004年)によって、「演技がうまい」という評価が固まった。
「金八先生」は第8シリーズまであるので、念のために付け加えると、中学生の覚せい剤乱用などがテーマになったシリーズである。
濱田の役柄は狩野伸太郎。お調子者の劣等生だが、友人思いで人望が厚かった。生徒側の中心人物で、卒業式では答辞を読んだ。壇上で友人を覚せい剤から守れなかった無念と後悔を切々と語り、茶の間を泣かせた。
伸太郎役の時点で濱田の演技はほぼ完成されていた。セリフも動きもごく自然。拙さや硬さを一切感じさせなかった。「金八先生」シリーズには200人近くのミドルティーンが出演したが、その中で屈指の演技力の持ち主だったと言っていい。
武器は「ダメな奴」
当時から濱田が最も得意とする役柄は変わっていない。ダメな奴なのに人柄はたまらなく魅力的という人物だ。典型例はテレ東の主演作「釣りバカ日誌~新入社員 浜崎伝助~」(2015年)で演じた若き日のハマちゃんである。
「ダメ」と「魅力的」は相反する。だから演じるのは難しい。目下のところ、このジャンルは濱田の独壇場である。だから出演依頼が絶えない。
妹の安子(上白石萌音)と一緒に貯めたカネを持ち逃げした「カムカム」の算太もダメ男だったが、憎めなかった。濱田のほかに算太が演じられた俳優がいるかというと、ちょっと思い浮かばない。
テレビ東京の主演作「フルーツ宅配便」(2019年)の風俗店の店長役もハマり役だった。吹けば飛ぶような男なのだが、懸命に生きる風俗嬢たちのために粉骨砕身した。このドラマの演技は評判高く、放送文化基金賞の演技賞を受賞した。
現在放送中の「マイファミリー」で演じている元刑事の警備員・東堂樹生も順調な人生を歩んできた優等生ではない。5年前に愛娘の心春を誘拐されたままで、今も犯人を追っている。
濱田はどうして余人を持って代えがたい存在になれたのか。まず才能に恵まれたのは間違いない。俳優はスポーツ選手などと同じく、努力だけで成功できる世界ではない。
最大の強みは俳優の世界をよく知るところだろう。早くにデビューしたため、周囲の大人たちからさまざまな教えを受けられた。オン・ザ・ジョブ・トレーニングである。
人気に溺れないのも先輩のお陰。10歳でチヤホヤされた時、先輩俳優からこう諫められたという。「100人が好きだと言ってくれたら、200人はおまえのことが大嫌いなんだからな」(1)。
売れているのは「運」だと考えている。9歳から始まった自分の運が、どこまで続くかという思いがある(2)。
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