浮気され「精神的殺人」と許さない妻、やまない尋問に疲弊する夫 “負のループ”に陥った夫婦の行方は?

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絶対に言えない不倫相手

 亜樹さんの尋問はいくらか減ったが、誠司さんに対する態度は一変した。直接の会話が減り、夫に向ける笑顔はなくなった。子どもたちがいるときは話すが、夫に自ら話しかけることはない。夫婦の寝室に行くタイミングも見計らっているようで、誠司さんが寝ついてからようやく入ってきていたのだが、睡眠時間が減るためかやがてリビングのソファで寝るようになった。それに気づいた誠司さんは、「寝室で寝たほうがいいよ」と告げて自らリビングで寝た。

「うち、納戸代わりのサービスルームというのがありまして、今はそこにベッドを移して寝ています。亜樹は子どもたちに『おとうさんのいびきがうるさいから』と説明していましたが、子どもたちももう親が不仲だと気づいているでしょうね」

 しかも亜樹さんが唐突にやってきて、「本当は誰と寝たの? 今も会ってるの?」と言うだけ言って去っていくこともある。「本当に不毛だ」と誠司さんは唸るように言った。

「あなたがちゃんと認めないからいけないと妻は言うんですが、認めて本当のことを言ったら大変なことになる。浮気したことは認めて謝ったし、これからも亜樹と一緒に家庭を築いていきたいと真摯に言いましたよ。だけど彼女は一向に許してくれない。いつまでこの状態が続くのかと思うと帰りたくもなくなるでしょ。それは亜樹には言えませんが。遅くなってもちゃんと帰っている自分が偉いと思うこともありますよ」

 理不尽なことを言っているかもしれないけどと彼はつぶやいた。

亜樹さんの言い分

 誠司さんに会った数日後、亜樹さんから連絡をもらった。

「夫と会いましたよね。私にも会ってください」

 どうやら誠司さんの携帯を定期的にチェックして、私と会ったことを知ったらしい。有無を言わせない雰囲気だった。

 待ち合わせ場所にやってきた亜樹さんは4年前に比べると表情が険しくなっている。誠司さんと会った理由を聞かれ、「亜樹さんとの関係で悩んでいるみたいですよ」と告げた。

「関係を壊したのは夫です。私は夫に殺されたんだから。わかります? 浮気って精神的殺人ですよ。やったほうは軽い気持ちかもしれないけど、心を殺された人間の気持ちがわかってない。あなたはそんな夫の味方をするんですか」

 誰の味方でも敵でもないと説明したが、亜樹さんは「心を殺された」を繰り返す。この調子で夫への尋問も続けているのだろうか。だが裏を返せば、そうせざるを得ないくらい傷ついているのは確かなのだ。どれほど傷ついたのか、傷つけた側が推測することのむずかしさを改めて思う。

 夫の浮気相手を知っているのだろうと亜樹さんに何度も聞かれたが、聞いていないと言うしかなかった。真実を知れば彼女はさらに傷つくだけだ。

「探偵事務所に頼めばすぐにわかる。だけど私がそれをしないのは武士の情けですよ。夫はそれをわかってない」

 傷ついたプライドはそう簡単に修復できないのだ。

 ひとつだけ亜樹さんに聞きたいことがあった。夫を本当に愛しているのか、愛とはあなたにとって何なのか。

「子どもがいるんだから別れるわけにはいかないんです。夫に同じことを聞いてきてくださいよ」

 はぐらかされた思いが強かった。夫をひとりの人間として心から愛しているとか、逆に心から憎んでいるとか、亜樹さんのナマの感情が知りたかっただけなのだが。

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