フードディレクター・KAORUが庭先のメジロから思い付いた「春のデザート」とは
梅の木とメジロの風情ある組み合わせ
広告や雑誌、CMなどで幅広く活躍するフードディレクターのKAORUさん。ニューヨークや東京で個展を開くなど、アーティストとしても幅広く活躍する彼女が、庭先のメジロを眺めながら考える、美しい春のデザート。
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ちちちちちゅっ、と夢の中でぼんやりさえずりが聞こえる。「あっ。きた。みかんあげなきゃ」なかなかベッドから抜け出せなかった冬の朝も、この声が聞こえる時頃になると条件反射的にばさっと布団をめくれるようになる。極小サイズの甘み強め、味まるみかんを冷蔵庫からひとつ取り出し、ペティナイフで横半分に切る。ベランダの笠木に二つの断面を上むきにして、間隔を少し離して置く。
1階に住む大家さんのお庭には立派な梅の木が生えている。一番近い枝先は2階の我が家のベランダから50cmくらいのところまで迫っており、もう少しで指先が届きそうな距離。年が明ける頃、寒々とした枝から可愛らしい梅の芽が頭を見せ始め、それらが少しずつ膨らむにつれ木全体が薄ピンク色に染まっていく。その蕾の蜜を食べにやってくるのがメジロたちだ。食材も、旬のもの同士は相性がいいというけれど、芽吹く梅の木の淡いピンクとメジロの上品な黄緑の色合いには風情があるなと思う。メジロ自身はそんなことはお構いなしで、無心に食べているところがまたいい。
芸術品のようなみかんの「抜け殻」
ベランダにみかんを置くと、梅の木で待機していたメジロの番いがぴゅっとこちらに飛んでくる。くちばしでみかんの果実を少しずつ突っつき、時間をかけて最後の一粒まで丁寧に食べる。見事に外皮と中の薄皮だけを避けるようにして食べ終わったみかんの「抜け殻」はちょっとした芸術品のようだ。
番いはそれぞれ独特の食べ方をする。一羽は半球体のみかんのへりを両足でつかみ、お尻をぺたっと床につけて座りながら食べるスタイル。まるでパンダのような格好で愛くるしい。もう一羽は片足でみかんのへりを押え、片足立ちでバランスを取りながら食べるスタイル。足がスプリットの様に開いていってしまうのが少し間抜けで微笑ましい。そんな二羽の食べる様子をわたしは体側をよじらせるような体勢で窓の横の柱の陰で息を潜めて毎朝iPhoneに収めている。
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