“話数短め”ネトフリ韓国ドラマ 軍隊イジメに児童虐待……社会派の4作
「愛の不時着」「梨泰院クラス」ブームからおよそ2年――。ネットフリックス発の韓国ドラマは日本でも度々話題になるが、話数の多さにちゅうちょしてしまうという人も多いのではないだろうか。そこで、休日に一気見したい、社会派&話数短めの韓国ドラマをライターの渥美志保さんに解説してもらった。
【写真】独特な描き方をされるという韓国作品のゾンビなど、一気見しやすい“話数短め”ネトフリ作品の場面写真
10話前後ですぐ見られる
面白いという評判は耳にするが、一般的な韓国ドラマの「1話1話が1時間超えで全16話」を思うと、忙しい中で見始めるのに勇気がいる――というのは、今だ韓国ドラマに手を出さずにいる人からよく聞く話だ。韓国ドラマ好きからすれば、見始めたらそんなこと忘れて一気に見てしまうと言いたいところだが、こちらは睡眠時間を削ってまで見ることもあるほどだから、なかなか真正面から反論はしづらいところだ。
この2月にネットフリックスで配信が始まった「未成年裁判」は、そんな迷える視聴者をも魅了した作品だろう。韓国の裁判所で満14歳未満の審判を担当する「少年部」の判事を主人公に描く同作は、実在の少年犯罪をモデルに「厳罰か、更生のための指導か」で揺れる少年審判の現場を描く社会派サスペンスだ。
実は、この作品はネットフリックスがストリーミングのために作った作品で、韓国でのテレビ放送を前提としていない。つまりお茶の間で見ることを想定しておらず、それゆえに物議をかもす社会派のネタを取り扱うことを許されたドラマなのである。同時に、テレビで放送しないので、「全16話」という編成にする必要がなく、全10話で完結する。「韓国ドラマはどうせ恋愛とイケメン」「韓国ドラマは長い」と韓国ドラマを遠ざけていた視聴者に、「そうじゃない韓国ドラマ」を提示した作品だったのである。
「正義」のない韓国軍を描く
ネットフリックスで配信される韓国ドラマは、基本的には韓国のテレビ局と共同で作品を作り、テレビ放送とほぼ同時に配信するというパターンが多いのだが、最近では無敵の資金力を背景にネットフリックスの独自作品も多く作られている。特に空前の大ヒットを記録した「イカゲーム」以降は、テレビでは実現しそうにない、社会の暗部に切り込んだ企画が次々と大ヒットしている。
「D.P. -脱走兵追跡官-」(全6話)もそんな作品のひとつである。「国民的年下彼氏」と呼ばれ大人気のイケメン俳優チョン・ヘインを主人公に据えて描くのは「軍隊内のイジメ」だ。
これまでも軍隊内のイジメが告発され明るみに出ることはたびたびあり、韓国国民はそのあまりの陰惨さに怒り、衝撃を受けてきたわけだが、それでもテレビドラマにおいて軍隊および軍人は「カッコいいもの」「正義」「国民のために戦う」と美しく描かれたものがほとんどだった。たとえ「悪い軍人」が登場したとしても、それは一般的なドラマにおける「善人vs悪人」の構図を超えるものではない。国防を担うために全男性に徴兵が課される韓国においては、軍は「カッコいい」「正義」でなければならないからだ。報道される軍隊内のイジメに対し、国民が「絶対に許せない」と怒るのはその裏返しでもある。
だが「D.P. -脱走兵追跡官-」は、徹底して「正義」のない軍隊を描く。入隊し憲兵(軍隊の中の警察)に配属された主人公アン・ジュンホは、その洞察力を買われ脱走兵を追う「D.P.」に抜擢される。物語は彼とその相棒ハン・ホヨルが、あの手この手で脱走兵を捜索するほぼ各話完結の刑事もののような構成で、アクション担当の堅物ジュンホと、アイディア満載の(一見)テキトー男ホヨルのコンビは、バディものの面白さもたっぷりだ。だが彼らは軍という組織の正義の代弁者、代行者では、決してない。物語が描くのは「イジメ」そのものの実態ではなく、「イジメ」を生む軍という組織のシステムであり、さらにはそれが韓国社会の縮図であることをあぶりだす。
被害者のすぐそばで傍観してきたジュンホは、組織の非人間性や不条理を野放しにしてきた罪悪感を背負っている。ホヨルはそうしたシステムの被害者であろうことは、彼が精神的な疾患で軍病院にいたことでほのめかされている(おそらく現在撮影中のシーズン2で明かされることになるだろう)。彼らはむしろ脱走兵に共感する立場にあり、ゆえに任務はある種の苦みとやるせなさを帯びるが、同時に脱走兵を「最悪の事態」から救う方法をそれ以外に見つけられないのだ。
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