家庭環境のせいで不倫相手を取っ替え引っ替え… 49歳男性が46歳にして落ちた「本気の恋」の結末

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46歳にして初めて「恋する気持ち」

 3年前のことだ。彼は由布子さんという女性と知り合った。彼女は晃太さんの友人と結婚を前提につきあっていた。

「友人はバツイチ、由布子さんは一回り下で結婚経験はなかった。そんなふたりがつきあっていて、あるとき3人で飲んだんです。その後、由布子さんから連絡がありました。『相談に乗ってほしい』と。彼女は彼と再婚したい気持ちはあるけど、前の結婚がどういう理由で破局したのかを知りたいと言っていました。彼が話してくれないんだそうです」

 晃太さんはそのあたりのことをよく知っていた。友人の離婚は、妻の不倫によるものだった。彼は不倫を知ってもなお再構築したかったのだが、妻は子どもを置いて出ていった。その子も当時、高校を卒業して遠方の大学に入学が決まったところだった。

「彼は優しいヤツだから、妻の不倫で前の結婚がダメになったと言いづらかったんでしょうと僕は言いました。すると彼女は、『自分のプライドを保ちたいからかもしれませんよ』と。そういう考え方もあるのかと目から鱗が落ちましたね。友だちだから悪くは思えないけど、確かにプライドの高いところはあるなあ、と。そんな判断ができる由布子さんをおもしろいと思いました」

 ふたりは情報交換と称してときどき会うようになった。いつしか由布子さんは、つきあっている友人には興味をなくしたらしく、ある日、「結婚はやめた」と言って泣いた。自分からやめたと言いながら泣く彼女の心理がわからず、晃太さんは戸惑うばかり。すると由布子さんは「私、あなたが好きになってしまったんだもん」と嗚咽しながら言った。

「そうですかと突き放すわけにはいかない。そのままホテルへ行きました。僕でよければいくらでもあなたの慰めになります、という気持ちだったんだけど、彼女は僕も彼女のことが好きなんだと受け取ったみたい。大学時代の悪夢がよみがえりましたが、由布子さんに対しては、他の女性とまったく違う気持ちが沸き起こってきました。それまで感じたことのないような胸の痛みとか体の奥からこみ上げてくるせつなさとか」

 そう、彼は46歳にして初めて「恋する気持ち」を経験したのだ。会えないときに「どうしているんだろう」と彼女のことばかり考え、一目だけでも彼女と会いたくて体が勝手に動き出し、会えたときに思わず笑顔になること。

「喜怒哀楽の感情がものすごく激しくなりました。彼女に会って話しているときはうれしくてたまらない、でも会えないと怒りや不安が心の大半を占めていく、どんなに好きでも一緒になれないと悲哀を感じ、それでも彼女といるときの楽しさは何にも代えがたい。感情がジェットコースターそのもの。仕事では普通にしていましたよ、だけどふっと感情のコントロールができなくなる。これが恋なのか、と思いました。僕は感情的に安定していると自分でも思っていたけど、そのころは本当に不安定でしたね」

 中学生と小学生の子どもたちと遊びながらも、頭の中に由布子さんの寂しげな顔がよぎる。ジョギングを始める、適当な場所まで自転車で行くからと家族に言って、由布子さんのひとり暮らしのマンションに通うようになった。40分かけて必死に自転車をこいで行くと、由布子さんはいつも笑顔で迎えてくれた。

ふと恐ろしくなり…

 晃太さんはどっぷりと由布子さんに溺れた。週末は家族と過ごすと決めていた彼が、土曜の夜中に自転車をこいでいることもあった。とにかく彼女に会いたいと思うと自分を止めることができなかった。体の相性も、心の相性もよくなるばかりで、彼女がいないと生きていけないのではないかと不安におののくようにもなっていく。

「気づいたら1年たっていました。コロナ禍で僕もリモートワークが増えていたけど、妻には『隣駅にワーキングスペースができたから、そこで仕事をする』と言って出かけました。実際、そこで仕事をしたんですが、集中して早く切り上げ、彼女のところに行くのが目的でした。いくら会っても足りない。帰り道、また彼女の家に戻ったこともあります。それだけ好きだった」

 ところが彼女の35歳の誕生日を一緒に祝ったとき、彼はふと恐ろしくなった。このまま彼女を自分に縛りつけておいていいはずがない。彼女には彼女の人生があるのだ、と。

「別れようと、唐突に言いました。彼女がびっくりしていたのは覚えています。今はいいけど、あなたが40歳になったとき、45歳になったとききっと後悔する。だから今、別れたほうがいい。自分でもそんな気持ちはないのに口が勝手にしゃべっていた。僕はあなたが大好きだけど、自分の勝手であなたを縛ることはできないんだと言いました。彼女は『私の人生は私が決める。今あなたと別れても、私にはあなた以上に好きになれる人は出てこない』と彼女は泣き叫んだ。好きだ好きだと僕は何度も言って、でも別れる、と。お願いだから納得してほしい。気づいたら僕も号泣していました」

 彼女は納得してくれず、また話し合おうと言って部屋を出たとき、彼は自分が正しいことをしていると感じたそうだ。あとは彼女が平穏に自分から離れてくれることを考えるしかなかった。

「だけど帰宅したらその日から寝込んでしまって。身を切られるように体全体が痛むんです。僕自身が別れたくないと感じているとわかりました」

 それでも彼は3ヶ月かけて彼女を説得し、穏やかに別れた。昨年、彼女は同い年の男性と結婚したと報告してくれた。

「そのとき僕にとって最初で最後の“恋”が完全に終わったんです。今も女性との関係はありますが、もう彼女のときのようなことは起こらないと思う。自分が感情的なアップダウンについていけない。恋というものがどれほど大変なものか、よくわかりました」

 今も由布子さんのことを思い出すと、鼻の奥がツンとするような感情が漏れてくるんですよね。彼は最後にそんな言葉を絞り出して去って行った。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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