高齢者は免許返納しない方がいい? “弱い高齢者”にならない秘訣を専門家が伝授

ドクター新潮 健康 長寿

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若者と高齢者の事故率はほとんど変わらない

 さきほど、なにかの「きっかけ」で「グレーゾーン」から転落してしまう人が多いと述べました。そのきっかけの一つに運転免許の返納があります。

 昨今、高齢者がひどい事故を起こした、というニュースがよく世間を賑わせます。そのたびにメディアは、高齢者は免許を返納すべきだと大合唱します。ところが、免許を返納することで「グレーゾーン」にいた人が弱り、ボケてしまうことが多いのです。私もそういう例をいくつも見てきましたし、事実、筑波大学の研究で、免許を返納すると6年後の要介護認定を受ける可能性が約2.2倍に増えることがわかっています。

 特に地方では、自動車は移動手段として欠かせませんし、運転してショッピングモールに行き、買い物するだけでもかなり歩き、いろいろな店を見て脳も刺激を受けます。免許を返納すれば、高齢者からそういう機会が奪われてしまいます。その結果、高齢者が自転車で車道をフラフラ走っているのは、非常に危険です。

 高齢者は事故率が高いと思われるかもしれませんが、実は、高齢者と10~20代の若者とで、事故率はほとんど変わりません。70代以上にかぎると、確率は若者のほぼ2倍ですが、それでも事故を起こす確率自体は1万分の1。しかも、若者は他人を巻き込む事故が多いのに対し、高齢者の死亡事故は4割が単独で、自分一人で完結しています。

 こうした数字からも、私は以前から、高齢者が自動車を運転することは、メリットのほうが大きいと考えています。

 アクセルとブレーキを踏み間違えた、という事故が起きると、認知機能と運転の関係が指摘されます。しかし、アクセルとブレーキのペダルの区別がつかないほど重度の認知症であれば、車を運転する以前に、日常生活に支障をきたしています。事故を起こした高齢者の多くは、血糖値が下がりすぎたり、血圧低下によって意識が混濁していたのではないでしょうか。むしろ、栄養の摂取の問題に戻っていくのです。

認知症でも大統領が務まる

 認知症とひとくくりにされますが、軽度から重度まで幅広く、すでに述べたように、85歳以上でアルツハイマー型の変性が脳にない人はほとんどいません。しかし、それでも普通に会話ができ、生活できる人は多いのです。運転に関しても軽度の認知症なら十分に可能です。米国のレーガン元大統領は退陣後数年経って、アルツハイマー病だと告白しましたが、おそらく在任中から軽度の症状はあったと思われます。認知症でも大統領が務まるのです。

 できることを減らさない。これは健康寿命を延ばすために非常に重要で、いまできていることをやらなくなるのは、老化防止という観点から非常に危険です。その意味でも、免許は返納すべきではありません。

 薬だけでなく、コロナ禍の自粛にも、免許返納にも、副反応はつきものです。しかし、こうした副反応はすべてQOLに関わってきます。そして、QOLを維持して健康寿命を延ばさないかぎり、老年格差において勝ち組にはなれません。なにかを決断し、選択するときは、副反応のデメリットを考え、メリットとてんびんにかけたうえで選ぶことが大切なのです。

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