なぜ「食い逃げ」「持ち逃げ」が起きない? 餃子からファッションまで…「無人販売」が流行
性善説ありきの運営
コロナ禍の下での無人販売のメリットは人件費削減だけではない。客は店員と接触せずに済み、滞在時間も短縮できて3密も防げる。冷凍食品は外出自粛やリモートワークの定着で“おうち時間”が増えた中、需要が見込めることも大きかった。その上で同社がこだわったのは、店の味を家庭で再現するための品質だ。
「蒸したてを提供できる実店舗とは違って、家庭で蒸すのは面倒だし難しい。既に蒸したものを冷凍で販売するため、店と同じジューシー感を出すのに一苦労。蒸し時間を調整するなど何度も試作しました」(同)
国産豚肉を使った焼売は食べ応え十分で、肉汁あふれる本格的な味わい。他にも「麻婆豆腐」や「桃饅頭」などを販売し、一律千円。無人ゆえ、おつりがいらない価格設定にしたのも納得。心配は万引きやいたずらだが、
「券売機も考えましたけれど、機械のボタンを押すより料金箱に現金を入れる形式の方が、私自身買いたくなると思いました。防犯カメラは設置していますが、日本人は真面目だなあと感じたのはプレオープンの時。料金箱からお札がはみ出すほどあふれたことがあったんです。でも誰も盗らない。逆にお客さまの方が心配してくれて」
ちなみに、2021年の拾得物処理状況をまとめた警視庁のデータによると、落とした現金が持ち主のもとへ戻った割合は実に75.4%。性善説ありきの運営が成り立つのは、日本人の生真面目な国民性が大きく影響しているようだ。
野菜の無人販売をヒントに
こうした無人販売の先駆け的存在は、全国展開する「餃子の雪松」だろう。現在、400店に迫る勢いで出店を加速させている。コロナ禍で着想したのかと思えば、運営する「YES」(東京・国分寺市)の高野内(たかのうち)謙伍マーケティング部長が明かすには、
「群馬県みなかみ町で3代続く食事処『雪松』の味を継承したいという思いがもともとの始まりで、コロナ禍がきっかけではないんです。結果的にはテイクアウト需要など世の中の動きが追い風となりました」
同社の長谷川保代表は、水上(みなかみ)で1940年に創業した中華食堂「雪松」の3代目店主の甥だ。店主が高齢を迎えて後継者問題に直面した際、伝説の味が無くなるのは忍びないと継承を決意。看板メニューの餃子を再現するため約2年かけて準備を進め、18年に埼玉・入間市で1号店を開いた。当初は店内飲食もできたが、毎日行列で売り切れる状態が続き、すぐに持ち帰り専門に変えたそうだ。
「味を継承するからには、気軽に、簡単に、安く、そしてあらゆる地域で提供したかった。そのため新たに考えたのが冷凍化、無人販売、24時間営業。ヒントにしたのが日本古来の野菜の無人販売所でした」(同)
19年夏に東京・練馬区で24時間営業の無人販売所を始め、あれよあれよという間に全国展開へ。実質3年弱で400店に届こうほどの急拡大は異例だろう。
「現在のような出店速度は想定していませんでした。どこか昔懐かしい味で、長年愛された伝説の餃子をご自宅で手軽に楽しめる点が喜ばれたのでは」(同)
[2/6ページ]