30年間賃金が上がらないのは誰のせい? 年収は韓国以下に…背景に「値上げヘイト」が
日本経済は「フル稼働」していない
「企業が内部留保を増やし始めたのは、90年代後半からでしょうか」
と述べるのは、『賃上げはなぜ必要か』の著書がある、東京都立大学経済経営学部の脇田成教授。
「当時、山一證券が倒産するなどの金融危機が勃発した。これを機に日本企業は、銀行が頼りにならない、自らでお金を確保しなければ、と倹約モードに入り、財政基盤をひたすら強化する方向に走った。それが今日まで続いてしまっています」
98年からの20年間で、日本の企業の1年間の人件費総額は200兆円とほぼ変わっていない。が、内部留保はこの10年で毎年20兆円も積み上がり、130兆円から480兆円と4倍近くにもなっているという。
「つまり、投資や賃金に使われない金が企業に滞留しているのです。いわば、日本経済は“フル稼働”していない状態。これを生かせば、賃上げも可能だったはずなのですが……」
賃上げこそが懐を刺激する方法
脇田教授によれば、企業による内部留保の使い道は三つある。設備投資、株主配当、そして、賃上げである。このうち、
「設備投資は既に過剰気味。株主配当は近年、どんどん増加していますが、そもそも日本の家計は株式をそれほど保有していない。東証上場企業の株でいえば、30%が外国人投資家の保有です。配当を増やしても、彼らは大いに潤いますが、日本の家計にそれほどメリットはないのです。やはり賃上げこそが、最も日本人の懐を刺激する方法なのですが……」
前述の「将来不安」のためか、企業はそこに踏み切れないというのだ。
これを「合成の誤謬(ごびゅう)」という。個々の企業にとっては苦境時に備え、金銭をため込んでいくのは賢く、合理的な判断だ。むしろ優秀な経営者と称賛されて然るべきだが、国全体でみれば、賃金の停滞を生み、消費を萎縮させ、企業の経営も悪化させる……という負のスパイラルに陥るわけである。
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