「NGT48騒動」報道でトラブル発生… 元記者が直面した「NHK幹部」の“超”無責任体質
昼下がりの会議室での事情聴取
ところがその後、AKSから電話はなかった。代わりに数日後に郵送で届いたのが秋元氏サイドから副部長にあてた文書だった。この文書は平デスクの私には読ませてもらえなかったが、大まかに言うとNGT48を運営するAKSと直接関係のない秋元氏の責任を追及する番組内容が不当だと抗議する内容だったようだ。
同じ頃、Iさんから五月雨式に私に届いたメールの中に、穏やかならぬ内容のものが含まれていた。過去にNGT48をめぐってNHKとAKSの間でトラブルが生じたことがあり、今回の問題でAKSとの関係がこじれるとこの騒動を蒸し返される恐れがあるとの内容だった。直接的な表現はなかったが、暗にNGT問題に深入りすることを牽制しているとも読み取れた。
結局、秋元氏サイドとのトラブルは東京で対応することになり、特に尾を引くことなく事態は収拾された。だが、東京まで巻き込む事態になったことで、Iさんと連絡を取っていた私が局内で事情聴取されることになった。
新潟局の局舎2階にある会議室に呼ばれたのは、正午のニュースを終えて業務が一息ついたあとの昼過ぎだった。コの字型に並ぶ机の中央に放送部長と副部長が並んで座っていた。この問題で矢面に立つことになった副部長は温厚で非常にクレバーな方で、私より年下だが尊敬できる上司だった。NGT48をめぐる秋元氏の責任の所在については議論が分かれるところだが、AKBグループといえば誰しも思い浮かべる秋元氏の道義的責任を追及する姿勢は報道機関として自然な主張だったといえる。
私自身は何らやましい行為をしたとは考えていなかった。結果的にIさんと袂を分かつ形になったが、取材が行き詰まっていた新潟局に図ってくれた数々の便宜を考慮すると、こうした展開もやむを得ないと受け止めていた。副部長も一連の事情は承知していたし、私の考えを多少なりとも理解してくれていたと信じている。この場には同席しただけで何も発言されなかった。
一方、事情聴取を仕切った放送部長はトラブルを嫌うタイプで、記者の間でも面倒事から逃げたがる上司として評判は芳しくなかった。事情聴取は、ほぼ一方的に部長から私に質問する流れで進んだ。
「なぜ勝手な返信をするのか」
最初の質問は、「なぜIさんに関わったのか」。私は2年前からの経緯を説明した。AKB48の総選挙で映像入手に骨を折ってもらったこと、今回、取材が難航する中でAKS本体との橋渡し役をお願いしたこと。
続いての質問。「なぜ副部長の名前を教えたのか」。これも事前に副部長に相談して許可を得たうえでのことであり、全く後ろめたさはない。AKSを通じて秋元氏サイドに名前が伝わったのか、Iさんご自身が伝えたのかは分からない。ただ、AKSから直接、新潟局に連絡があったとしても副部長本人が対応すべき事案だった。反省するとすれば、確かに次に問われた点は慎重にすべきだったかもしれない。
「過去にAKSとNHKにトラブルがあったという内容のメールが来たときにどう対応したのか」
実は私はIさんから情報提供を受けるたびに「情報ありがとうございます。内部で検討します」と返信するのが決まり文句で、このときも同様の返信をしていた。ただ、通常の情報提供とは次元が異なる内容だったので、反省すべき点はあったと思う。この答えが放送部長の逆鱗に触れたようだ。
「なぜ勝手にそんな返信をしたのか。検討するということは内部で対応するということになるだろう。でなぜ余計なことを言うのか」
「I氏からのメールは明らかに脅しだろう。これは脅しだ。ただ、ありがとうございますとだけ返せばよかったんだ」
確かに「検討します」は余計だったかなと反省しつつも、私は現場から離れた放送部長とは何と気楽な立場かと半分あきれながら聞いていた。再三繰り返すがIさんの協力なしでNHKのNGT48報道は成り立たないレベルだったからだ。さらに上司とはいえ、この問題で全く汗をかいていない人物から「下っ端のお前ごときが」と見下すようなニュアンスで威圧してくる態度にはすっかり嫌気がさしてしまった。放送部長もこうした現場の事情は多少なりとも聞いていたはずだが、トラブルが生じると手の平を返して恫喝混じりの口調で部下を追及してくる。20分ほどの事情聴取だったが、私は失望しか感じなかった。
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