早くも米日とすれ違う尹錫悦外交 未だに李朝の世界観に生きる韓国人の勘違い
李朝の世界観で生きる
――こんな猿芝居に米国が納得すると韓国は考えているのですか?
鈴置:考えています。ここが韓国人独特の思考方式なのです。「形式的とはいえQuadに入るのだ。米国はメンツが立って喜ぶはずだ」と考えるのです。
韓国人は未だに李氏朝鮮の世界観で生きている。冊封体制下での属国の義務は宗主国に朝貢する――形式的に恭順の意思を示すだけで十分でした。宗主国に援兵を送ることもありましたが、それはよほどの事態でのこと。平時は「宗主国側の国である」と表明し続ければよい、というルールなのです。
もちろん米国は朝貢――形式的な恭順さえあれば十分とは考えません。「同盟国は同盟国の義務を果たせ」と要求します。形だけQuadに入ろうとする韓国に対し、厳しい姿勢で臨んでいます。
3月19日、国務省スポークスマンは「今のところ、Quadは外部パートナーとの協力の手続きは備えていない(To date, the Quad has not developed procedures for cooperation with outside partners.)」と宣言しました。
同省が所管するVOA(Voice of America)が「米国務省、尹当選者のQuad公約に『外部パートナーとの協力手続き無し』」(韓国語版、発言部分は英語と韓国語)で報じました。
「中国が怖いからといってワーキング・グループでお茶を濁すことは許さないぞ」と韓国を叱りつけたのです。
及び腰の韓国が加盟すれば、「最も弱い輪」として中国がQuad破壊のとっかかりにするのは確実です。米国は、中国から報復された際に耐える覚悟の無い国を入れるつもりはないのです。
「日韓野合」を潰す
VOAは3月25日には「日本外務省、尹当選者の公約に『Quad内には参加国拡大論議なし』」(韓国語版、発言部分は英語と韓国語)を載せました。
・To date, there have been no specific discussions among Japan, the U.S., Australia, and India about expanding the number of participating countries.
VOAの質問に答える形で、日本の外務省も「日米豪印がQuad拡大を話し合ったことはない」と韓国を突っぱねたのです。厳密に言えば「米国に突っぱねさせられた」のでしょう。
韓国は東京でQuad首脳会議を主催する日本を説得して、オブザーバー参加の招待状を送らせようと図った。日本も乗るフシがあったので、米国は機先を制し「日韓野合」を潰したと思われます。
VOAは外務省に「日本は『自由で開かれたアジア太平洋』(FOIP)の実現に向け、その構想を共にするより多くの国々と様々の試みを通じ連携を深めて行く」とも語らせています。
・In any case, Japan will continue to deepen its partnership with more countries that share its vision through various initiatives toward the realization of a “Free and Open Indo-Pacific”.
「FOIPの構想を共にする国」と連携相手を限定することで「中国に本気で立ち向かう国だけがQuadに入れるのだ」と念を押したのです。
興味深いことに、韓国の次期政権にとって極めて重要なこの2本のVOAの記事は韓国でほとんど報道されませんでした。国防研究院の2人の専門家も当然、2本の記事を読んだはずです。
しかし2人とも完全に無視して「韓国がQuad参加を望めば、米国は歓迎する」との前提で論文を書いたのです。Quad参加をあれほどはっきりと拒否されたというのに。李朝の発想は未だに続いているのです。
大きくなっても意識は子供
――李朝が滅んで100年以上もたちます。
鈴置:滅ぶと同時に日本の植民地になった。近代国家として外交を始めたのは1948年以降です。
――それにしても70年はたっている。
鈴置:韓国は軍事的にも経済的にも弱々しい国としてスタートしました。朝鮮戦争では滅亡の危機を米国に救われ、その後も同盟を結んで貰って生き延びました。米国の求めに応じて1965年に日本と国交を正常化し、その援助で経済成長に成功しました。
韓国は近代国家としてスタートした瞬間から米国に手厚く保護された。韓国人の目には、依然として世界では冊封体制が続いているように映ったのです。米国と同盟を結ぶだけで、自分は何の貢献をしなくとも助けて貰える日々が続いたのですから。
日本との違いを考えると分かりやすい。明治維新により世界に国を開いた後、日本は南下するロシアとの戦争を覚悟した。一方、英国は世界中でロシアと覇を争っていた。アジアでの戦力が必要な英国と、英国の後ろ盾が必要な日本の利害が一致して日英同盟が結ばれたのです。近代国家日本の初の同盟となりました。
その経緯から日本人は「同盟とはギヴ・アンド・テークである」との認識を心に刻んだのです。一方、「ギヴ」したことがなく「テーク」ばかりの韓国人に、近代的な同盟観を求めるのが無理というものです。
――しかしもう、韓国は弱い国ではありません。「大人の国」です。
鈴置:でも、意識は子供のまま。中央日報の金玄基(キム・ヒョンギ)巡回特派員兼東京総局長が、拡大する米韓間の意識ギャップを象徴するエピソードを報じています。「米・日の現地でいじめられる?…尹政権の初の駐米・駐日大使の条件」(3月24日、韓国語版)から引用します。
・ワシントンでの勤務当時、米国のあるベテラン外交官から聞いたひと言が忘れられない。「韓国の外交官たちは会えばすぐに、何々をしてくれと頼んでくる。一方、日本の外交官は『私に何ができるか』と尋ねてくる。そして韓国は頼んだことが解決すれば、その後は連絡も寄こさない。しばらくして連絡が来ればまた、頼み事だ。だから電話にはもう出ない」。
大きくなっても同盟国の義務を果たさず、依頼心を発揮するだけの韓国に、米国は不信感を募らせています。ことに、冊封的世界観からくる韓国人特有の属国根性は米国人には理解しがたい。意識ギャップは深まるばかりです。
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