早くも米日とすれ違う尹錫悦外交 未だに李朝の世界観に生きる韓国人の勘違い
就任前から米国や日本とのすれ違いが目立つ尹錫悦(ユン・ソクヨル)外交。韓国観察者の鈴置高史氏は「同盟関係を昔ながらの冊封体制と勘違いしているからだ」と解説する。
バイデン訪韓で「日本に勝った」
――バイデン(Joe Biden)大統領が5月21日にソウルで尹錫悦大統領と会談します。
鈴置:バイデン大統領は翌5月22日には日本に回り、23日に岸田文雄首相と会談。24日には東京で開かれる日米豪印4カ国の安保対話、Quadの首脳会議にも出席します。
尹錫悦氏が大統領に就任するのは5月10日です。就任11日目の米韓首脳会談となりますから、韓国紙は「史上最速のうえ日本よりも先だ」と大喜びしています。例えば、中央日報の見出しは「バイデン氏、日本より韓国を先に訪問…来月21日に首脳会談」(4月29日、日本語版)です。
――韓国の政権が左派から保守に変わった。米国も歓迎しているのですね。
鈴置:もちろん、文在寅(ムン・ジェイン)政権という名うての反米従中政権が降板するのですから、米国はほっとしているでしょう。ただ、バイデン政権が次の尹錫悦政権を信用しているかといえば、話は別です。「親米」を唱えるものの、実態は依然として「従中」のままである可能性が高いからです。
次期政権が「従中」かどうか、最大のリトマス試験紙は中国包囲網たるQuadにきちんと加盟するかです。大統領選挙期間中、尹錫悦氏は「親米」に戻る証として加盟を公約しました。ただ、「ワーキング・グループに参加した後、正式な参加を模索する」との曖昧な姿勢に留まっています。
Quadに入り、反中色を消す
――なぜ、正式メンバーとして加わらないのでしょうか。
鈴置:中国が怖いからです。本音をのぞかせた論文があります。韓国国防部の傘下機関、国防研究院(KIDA)の李秀勲(イ・スフン)先任研究員が書いた「韓国のQuad参加時に考慮すべき事項」(4月4日、韓国語)です。ポイントを訳します。
・韓国はQuad参加が対中牽制であるインド・太平洋戦略に賛同するのではなく、人類の発展のための世界の保健、技術、気候などの非正統的な安保協力のためのものであるとの立場を内外で堅持せねばならない。
・中国または他の国と摩擦を起こす余地の有無に対し、判断が必要である。サイバーと宇宙分野のワーキング・グループ参加は、韓国がQuadと軍事的に協力するとの印象を与える必要があるので慎重な接近が必要である。
この論文はワーキング・グループでの――オブザーバーとしてのQuad参加を促していますが、中国に睨まれるようなことはすべきではないと繰り返し説いています。要は、中国包囲網としてのQuadには入らない、ということです。
――Quadの趣旨を全く理解していない。米国の外交関係者が読んだら、唖然とするでしょうね。
鈴置:そう思います。同じ国防研究院の金斗昇(キム・ドゥスン)責任研究委員の「韓国新政権出帆に対する日本の認識と政策的含意」(4月22日、韓国語)はもっとすごい。Quadに入ることで、その反中的性格を日本と共に内側から弱めて行こうとの提言です。
・日本政府は[Quadなど]対中牽制の色彩の濃いインド・太平洋戦略に関与しつつも、中国との戦略的な協力関係を維持、または重視する。これは韓米日の協力体系の対中牽制への傾斜を食い止めることが不可能ではないことを示唆する。
・韓国の新政権がインド・太平洋戦略に対し関与政策を展開する過程で特に注意すべき点は、韓国の関与に対する日本政府の反対ではなく、この戦略への日本政府の接近基調である。
・岸田政権もやはり[これまでの政権と]同様に中日関係の両面性を考慮し、Quadが安保軍事的な次元の対中“封鎖”に収斂することには慎重な立場をとる可能性が高い。まさしく、この点こそが韓国の新政権がインド・太平洋戦略への関与政策を展開する際に見逃してはならない戦略的に考慮すべき事項である。
――確かに、よく読むと「Quadの反中的性格を変えよう」と訴えています。
鈴置:これが次期政権の本音と思います。もちろん、中国に弁解する目的もあるでしょう。「Quadに入るが、中国に敵対するつもりはない。むしろ反対に反中色を薄めるのが目的だから、怒らないで欲しい」と。
[1/3ページ]