「ロシアを最も強く非難すべきは日本である」 石破茂元防衛大臣が見るウクライナ侵攻
核使用のハードル
いま、直近でもっとも心配なのは、5月9日まで、あるいは当日のロシアの行動です。
この日は、旧ソ連時代から国家最大の祝日とされているロシアの「対独戦勝記念日」です。
欧米では対独戦勝記念日が5月8日なのにロシアでは5月9日となっているのには理由があります。
降伏文書の調印がフランスのランスで行われたことにスターリンは不満を抱いて、「ドイツ総兵力の6割と戦い、ソ連人口の12%にあたる2700万人の多大な犠牲者を出してナチスを倒し、ヨーロッパを解放に導いたのは我がソ連であり、降伏文書の調印はベルリンのソ連軍司令部で行われるべき」と強硬に主張しました。そのためわざわざ翌日に再度、ベルリンで降伏文書の調印が行われ、この日をソ連は記念日としたのです。
歴史教育の徹底により、このような意識はロシア人に共通した強烈なものとなっているようで、ブレジネフも、ゴルバチョフも、エリツィンも5月9日の軍事パレードにおいて大演説を行いました。ですから「ウクライナの非ナチ化」を戦争目的に掲げるプーチン大統領も、この日を強く意識しているであろうことは想像に難くありません。
戦況が芳しくないままでこの日を迎えることは避けたいであろうところ、彼がどのような決断をするのかは注視すべきです。
最悪の想定は、懸念されている戦術核兵器の使用という事態です。世界唯一の被爆国として、我々は核兵器の使用に強く反対の意思を表明し続けなければなりません。しかし一方で、日本以外の国は必ずしもそこまで核兵器の使用をタブー視していない、ということは認識しておいたほうがいいかもしれません。絶対に使ってはいけない兵器だ、という認識が国際的に共有されているとはいえないのです。
そして、仮にロシアがいわゆる戦術小型核兵器の使用に踏み切り、「核兵器は使える兵器だ」という認識が国際社会の一部にでも共有されるようになれば、これまでの核抑止の理論は吹っ飛んでしまいます。それはまた、戦後の国際秩序を根底から覆す可能性も持っています。一気に世界が100年前に戻されてしまうような衝撃なのです。
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