テクノロジーを使ってタクシーの未来を作る――川鍋一朗(日本交通会長)【佐藤優の頂上対決】

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ライフスタイルに寄り添う

佐藤 観光、介護、子供に特化したタクシーは、どのようにして誕生したのですか。

川鍋 分かりやすいのが「陣痛タクシー」です。ある時、無線センターにいたら、ベテランのオペレーターが緊張した面持ちで対応していた。聞けば「妊婦さんなんです」と言う。陣痛が始まって病院に行くためにタクシーを呼んだんですね。実は妊婦さんへの配車は毎日のようにあって、その時は車が見つかるか、ヒヤヒヤするとも言うんですよ。

佐藤 一刻を争いますからね。

川鍋 それなら妊婦さんを最優先に配車しなきゃいけない。それを全車両でやるだけでなく、妊婦さんに登録してもらい、さらに病院も事前に設定しておけば、もっと安心していただけるんじゃないかと考えたのです。これには反響が大きく、妊婦さんにも産婦人科の先生方にも非常に好評です。とくにお医者さんは妊婦さんに対して、出産は病気じゃないから救急車を呼んではいけない、と言ってきたんですよ。じゃあどうすればいいかと問い返されると、答えに窮していた。それがこの陣痛タクシーを呼べばいいとなったわけです。

佐藤 どのくらい利用されているのですか。

川鍋 認知度としては都内の妊婦さんの9割、登録されている方は他社も含めて5割ほどです。

佐藤 そうすると、都内で生まれる赤ちゃんの多くが日交の「陣痛タクシー」経由ということになりますね。

川鍋 そうです。たまに車内で生まれてしまうこともありますが、幸い事故は一度もありません。妊婦さんからは大変に感謝されて、後からお手紙をいただいたりすることもある。そうすると、ドライバーの職業意識が上がりますよね。社会の役に立っていることが実感できますから。

佐藤 なるほど、こうしたことでもプロ意識が育まれる。

川鍋 この「陣痛タクシー」を通して、「ライフスタイルに寄り添う」ことにタクシーの価値があると考えたんです。ちょうど同じ頃にサポートタクシーやキッズタクシーも生まれました。

佐藤 高齢者や妊婦さんを相手にするなら、サービスのスキルも上がりますよね。どんどんハイヤーの領域に近づいていくのではないですか。

川鍋 その通りで、弊社のタクシーはハイヤーのサービスを目指しています。もともとハイヤーから始まった会社ですからハイヤー部門もあり、そこでは「タクシーがどんどん迫ってくるから負けるなよ」と言っています。一方、タクシー部門には「ハイヤーから始まった会社なんだから、タクシー業界ではナンバーワンのサービスにするんだ」と発破をかけている。やはりプロ意識を持って「桜にN」の車のハンドルを握ってほしいんですよ。

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