匿名のネット誹謗中傷「改正プロバイダ責任制限法」で劇的に軽減される被害者の負担
費用は数十万円以上
当然、このような手続きは専門知識を有した弁護士に委任しなければ難しいです。ケースバイケースですが、少なくとも数十万円の費用がかかりました。相手がツイッターのような外国の会社ならば、書類の翻訳費用なども加わりますし、訴訟が長期化し、書面や証拠資料を追加で作成しなければならなくなったりすれば、100万円近くかかってしまう可能性もあります。これは発信者を特定するまでの費用です。この後、損害賠償請求訴訟などを起こすとなれば、さらに数十万円程度の弁護士費用を要します。
経済的に余裕のある人でなければできない手続きだったと言ってよいでしょう。裁判所が認める慰謝料の額が低額ということを知って、要する費用が得られる効果に見合わないと考え、泣き寝入りした人も多かったと思われます。
そんな煩雑な手続きが、「改正プロバイダ責任制限法」で大きく変わるのです。これからは、訴訟よりも迅速な新しい手続きで、アクセスプロバイダとコンテンツプロバイダに対する開示請求が並行して行えるようになります。
その新しい仕組みが、「提供命令」です。提供命令によりコンテンツプロバイダからIPアドレスやタイムスタンプの提供を受けたアクセスプロバイダは、投稿者の氏名・住所といった発信者情報を特定した上で、同じ手続きの中で発せられる「消去禁止命令」を受けて、この情報を保全します。
裁判所は、投稿による明らかな権利侵害などの要件が満たされるかを迅速に審理し、これが認められる場合には、アクセスプロバイダに対し投稿者の氏名・住所などの開示を命じることができるようになりました。
誰が書き込んだか知りたい
つまり、3つの手続きが、たった1つに簡略化されたわけです。実際、運用してみないとわかりませんが、時間・費用ともに、これまでの半分くらいの負担になるのではないかと言われています。
匿名の誹謗中傷は、旭川のいじめ事件のような全国的なニュースになる大事件ばかりではなく、日常生活の中でも、ささいなきっかけで起こりうることです。その場合、投稿者が元恋人、職場の上司、同級生などといった身近な存在であることがほとんどのようです。被害者は、慰謝料の支払いを受けたいというよりも、投稿者を特定したいという目的で訴訟を起こすケースが多いのです。
発信者情報が開示され、こんなに身近な人物に攻撃されていたのだと知って、ショックを受ける人も少なくありません。今回の法改正で投稿者の特定が容易になったことにより、抑止効果が働き、陰湿な誹謗中傷が減ることが期待されています。
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