実験が明らかにした「オンラインの会話では共感が起きない」 原因の一つは「視線のズレ」か

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顔の表情と言葉の間のズレ

 では、なぜオンラインコミュニケーションだと脳は同期しないのでしょうか。

 コミュニケーションにおいて、大事な役割を果たすのは「視線」です。お互いに視線が合っているか否か、それはお互いに注意を向け、関心を持っていることを示す最も大きなサインです。これは「人間らしいコミュニケーション」ともいえます。動物だと、視線を合わせることは相手を「襲おうとしている」サインになりますが、人間だけは「自分に興味を持ってくれている」と善意に解釈する。

 この人間らしいコミュニケーションの大事な要素である視線が、オンラインだとどうしてもずれてしまいます。画面上に映る相手の目を見ようとすれば、自分を撮っているカメラから視線を外すことになる。逆にカメラを見ると、相手の目は見られない。つまり視線は合わない。ゆえに脳は同期しない。

 また、オンラインコミュニケーションの「遅延」も、脳の同期が生まれない大きな原因ではないかと推測しています。現状のオンラインのコミュニケーションでは、どうしても画面に映る顔の表情と言葉の間にズレが生じます。

まるで「気持ち悪い紙芝居」

 私たちは、意識の上ではオンライン画面に映る動画を、文字通り動画として認識しています。しかし脳内では、全部コマ送りの画像として捉え、それをつなぎあわせているに過ぎません。言ってみれば、「超高速紙芝居」のようなものです。

 したがって、視覚情報と聴覚情報の間に時間の誤差が生じるオンラインコミュニケーションは、例えるならば、紙に描かれた絵の内容とセリフが合っていない、極めて気持ちの悪い紙芝居といえます。この気持ち悪さを私たちが意識することのないよう、脳はうまく調整してくれているのですが、脳自体はその気持ち悪さを敏感に感じとっている。このことも、脳の同期を阻害しているのだと思います。

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