実験が明らかにした「オンラインの会話では共感が起きない」 原因の一つは「視線のズレ」か
心と心がつながらない
今回の実験は、脳の血流の変化を測定するNIRS(近赤外分光法)と呼ばれる方法で行いました。そのために用いたのが、私がCTO(最高技術責任者)を務める、東北大と日立ハイテクが出資して設立した大学発ベンチャー「NeU」が開発した「HOT-1000」という超小型脳計測装置です。
脳のある部分が活発に働いている場合、当然、エネルギーが必要になるのでそれを供給するためにその脳の部分の血流量が増えます。
文字通り赤い光である近赤外光で脳を照らすと、ほとんどの光が血液中の赤いヘモグロビンに吸収されてしまいます。しかし、ごく一部の光は反射して戻ってくる。脳のある部分が活発に働いていると、そこに送られるヘモグロビン量(血液量)が増えるので、その分、光が吸収され、反射光の量は減少します。つまり、反射光が少なければ少ないほど、その脳の部分は活発に働いていることになるわけで、HOT-1000はその反射光を感知、測定するのです。
そして実験では、人が「他人と共感できている」と感じる時に脳の中で活発に動く三つの部分のうち、額の生え際の下にあり髪に隠されていないため反射光を感知しやすい、背内側前頭前野に近赤外光をあててみました。
その結果、対面会話時は、背内側前頭前野からの反射光量が変動する周期が5人で重なっていた。5人の反射光が変動するタイミングが一致し、「脳の同期」が起こっていたのです。それに対し、オンライン会話時はその周期が重ならないことが分かりました。対面会話時はお互いに共感していたのに比べて、オンライン会話時は共感できていなかったわけです。簡単に言うと、心と心がつながらなかったと言えるでしょう。
「人と接触しているのに孤独」という矛盾
そうしたオンラインコミュニケーションを多用し続ければ、「人と接触しているのに孤独」という矛盾した事態が起きることが予想されます。今回の実験結果で改めて、オンライン会話時には心と心がつながりにくいことが脳活動のレベルで実証されたわけですが、この結果は、すでにみなさんが、心のどこかで実感済みだったのではないでしょうか。
Zoomでも何でも、オンラインでの会話は、非常に表面的な情報のやり取りに終始し、相手に寄り添って気持ちをくんだり、本音を引き出すのが難しいと感じたことがあるはずです。
私自身も、オンライン講演の機会が増えていて、そこで感じるのは「場の空気」が読めないという感覚です。聴衆と直(じか)に接することができるリアルな講演だと、私の話が理解されているのか、それとも飽きられているのかが肌で感じ取れ、話し方や内容を変えたりすることができます。ところがオンラインの場合だと、聴衆にどれだけ伝わっているのかがどうしても分からない。
また、オンラインでは友好を深めるとっかかりが難しい。東北大のある仙台に来ていただき対面取材を受けた場合、話が盛り上がって「この後、ちょっと飲みに行きましょうか」となり、友だち関係に発展することは大いにあり得ます。しかし、オンラインで取材を受けた後に、「今度、一杯」となることはなかなか想像しがたい。日程の都合によりオンライン取材となった今回の週刊新潮の記者さんとも、残念ながら飲みに行く機会は訪れなそうです。
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