実験が明らかにした「オンラインの会話では共感が起きない」 原因の一つは「視線のズレ」か
未曾有の疫禍によって我々にもたらされた“恩恵”、それは何よりもリモートの活用だったのではないか。だが、利便性の裏には常にリスクが潜んでいるもの……。新時代を問うシリーズ「ポスト・コロナ」論。オンラインコミュニケーションの欠陥に警鐘を鳴らす。
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人は易(やす)きに流れる。
残念ながら、人間はこの性(さが)から逃れることはできません。楽な環境に身を置き、慣れてしまうと、人は衰え、次第に越えられるハードルが低くなっていきます。昨日越えられたハードルが今日は越せず、今日は越えられていたのに明日は越せない。それは脳に関しても同様で、使わなければ能力は減退していきます。
Use it or lose it.
使うか、さもなくば失うか。
今、私たちはコロナ禍において、まさに楽をしているといえます。
〈こう警鐘を鳴らすのは、東北大学加齢医学研究所所長の川島隆太教授だ。人間の脳の働きを調べる「脳機能イメージング研究」の第一人者である川島教授は、大ベストセラーとなったゲームソフト「脳トレ」の監修者として知られる。
かねて、SNSやスマートフォンによる脳機能への弊害を指摘してきた川島教授は、現在、「コロナ禍におけるコミュニケーションの現状」に強い危機感を覚えているという。
オンラインコミュニケーション。
未曾有の疫禍に見舞われた私たちの社会は、オンラインによるコミュニケーションに頼ることで感染リスクを避ける道を選択した。しかし同時に、我々は別のリスクを背負うことになった。そのリスクに、あまりに無自覚ではあるまいか。川島教授は、それを可視化する実験を行い、「もうひとつのリスク」に目を向けるべきだと説く。〉
オンラインでは共感が起きない
オンラインコミュニケーションの特色とは何か。それは何をおいても楽なことです。肉体の移動を伴わずにコミュニケーションが図れるのですから、これに勝る楽さはありません。
そして対面コミュニケーションであれば、実際に人と接することでさまざまな刺激を受け、脳が働きますが、オンラインコミュニケーションの場合、刺激が少なく、脳の一部しか働かない。この点でも“楽”だといえます。しかし、その楽さを得るために、私たちは決して小さくない代償を払っているのです。
コロナ禍が始まっていた2020年6月頃、オンラインと対面とでは、「コミュニケーションの質」がどう違うのかを実証するために、私たちは脳活動を測定する緊急実験を行いました。具体的には、「5人一組」×「5組」の計25人に、それぞれオンラインと直接対面での会話を行ってもらい、その間の脳の働きを解析したのです。
まず同じ学部の同性の学生を5人一組として、実験開始前にインタビューを行い、それぞれどんなことに興味・関心があるのかを尋ねました。例えば、その5人の共通項が「映画好き」だとすると、「好きな映画について話してください」と、全員で盛り上がれるようなテーマを設定し、自由に会話を楽しんでもらうシチュエーションを用意する。そうした状況で、5組それぞれにオンラインと対面の両方で会話をしてもらったところ、次の結果が得られました。
オンラインの会話時には起きなかった「脳の同期」が、対面の会話時には有意に見られる。
これはすなわち、対面で会話するとお互いに「共感」するのに対し、オンラインでの会話ではそれが起こらなかったことを意味します。
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