僕は育ちが貧乏なので… かまいたち「濱家隆一」が語った仕事の原動力とは

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

かまいたちのエンジン役

 2018年にかまいたちが東京に拠点を移した当初、山内と比べたら目立たない濱家を「じゃない方」に位置付ける向きもあったが、それは見当違いもいいところ。2人は役割が異なるだけである。

 濱家のツッコミの才能はネタを見れば一目瞭然。一例は「M-1グランプリ2019決勝」で披露した代表作の1つ「UFJ・USJ」である。

 UFJ(三菱UFJ銀行)とUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)を言い間違えた山内が、それを必死に誤魔化そうとするネタだ。

山内「僕、この間、UFJに行った時ね」
濱家「USJね」
山内「ちょっと恥ずかしい経験したんですよ。その日からハロウィンナイトというイベントが始まっていたのを僕は知らなくて、ゾンビが出てきた時に1人だけパニックになっちゃったんですよ」

 濱家は「UFJではなくUSJ」と間違いを冷静に指摘するが、山内は頑として誤りを認めない。それどころか濱家が間違えたのだと言い始める。山内らしい妙なプライドと姑息さが全開となる。

山内「間違ってたほうの親の顔はもうネットにさらすからな」
濱家「誰が見たいねん、そんなもん」
山内「マジでさらすからな」

 山内が一向に自分の非を認めないため、濱家もキレ始める。それでも山内のウソと詭弁が止まらないと、濱家は壊れてしまう。

濱家「キャー」

 サイコパス的な山内のボケが生きるのは、ツッコミの濱家が普通の人をごく自然に演じているからだ。

 山内が自分を見下したような態度を取ればリアルな怒りを見せるし、山内が常軌を逸した発言をすると脱力する。言うまでもなく、どれも演技なのだが、真実味を感じさせる。濱家がうまいのだ。

 漫才中の濱家がごく真っ当な人物に映るからこそ、アブナイ人という役回りの山内との間に絶妙のギャップが生まれ、それが笑いに変わる。

 山内は天才肌だが、キャラがキレ過ぎているから、ピンだと笑いが取りにくいはず。一方、濱家は普通の人をやらせたらピカイチだ。おそらく濱家以外の相方では山内の持ち味が十分に引き出せない。

 2人は2003年にNSC大阪校に26期生として入学した同期生。山内は基本的にピンで活動していたものの、周囲からの評価はイマイチだった。やはりキレ過ぎているからだろう。

 NSC卒業後の2004年、一緒にやろうと誘ったのは濱家。山内の才能を見抜いた。ほかのNSC同期生の中には反対する者もいたが、それでも濱家は山内とやることを望んだ。

 山内は自らを「消極的な性格」と評している。国立の奈良教育大出身で中学と高校の教員免許を持ち、お笑いの世界で3年やって芽が出なかったら郷里の島根に帰ろうと考えていた。

 一方、濱家は積極的。小学生のころから芸人志望で、高校卒業後にNSC入り。失敗することなど考えてもなかった。

 山内は忙し過ぎるのが苦手らしいが、濱家は忙しいほど喜ぶという。かまいたちのエンジン役は濱家なのだろう。

 タイプが違うことも幸いしたのか、2人の仲の良さは有名。相方が濱家だから、山内は安心して暴走できるのだ。

 濱家の才能から目が離せない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。