白井球審はなぜ佐々木朗希にあれほどエキサイティングしたのか

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 球審がキレた、と物議をかもしている。4月24日のオリックス対千葉ロッテ戦。2回裏に球審の白井一行が佐々木朗希に厳しく注意を与えた。その詰め寄り方が通常見られない激しさだったため、多くのファンが腹を立てたのだ。【小林信也/スポーツライター】

「いまのはボール?」

 2死で1塁に走者を置いた場面、打者・安達に3球目を投じたとき、1塁走者が走った。投球は真ん中低めへの素晴らしい快速球。低めなのに、あれほど力強く伸びる球は見たことがないくらい。目を見張るボールだった。が、白井球審の右手は上がらない。捕手・松川虎生の送球を佐々木も振り返って見る。二塁はセーフ。次の瞬間、佐々木はホームに向き直り、1歩2歩、捕手の方に動いた。

 改めてボールの判定を確かめる感じだったろう。私も高校まで投手だから、こうした場面の投手心理は想像できる。走者が盗塁を試みると、球審が勢いよく右手を上げない場合、ストライクかボールか、判定がわかりにくい。きわどいコースなら尚更だ。佐々木にすれば、会心の投球だっただけに、ストライクであってほしい気持ちは当然あっただろう。だが、判定はボールのようだ。たぶん、その程度の感じ。判定に抗議する思いなどさほどなかっただろう。

 しかし、ホーム方向に歩み寄った段階で、白井球審はその行動を「抗議の表明」と見なした。

 多くのファンが、「佐々木をいじめるな!」「やりすぎだ」と感じている。過去の例を思い起こしても、この程度の行動であれほど厳しく注意を受けた投手を見た記憶がない。ところが、
「ルールに則って判断すれば、白井球審の対応は正しい。まったく間違っていません」
と断言するのは、元パ・リーグ審判員の山崎夏生氏だ。山崎氏は、1982年から2010年まで一軍公式戦計1451試合で審判を務めた。引退後は審判技術委員として8年間、後進の指導にもあたった。山崎氏が言う。

「公認野球規則8.02のa項にはっきり規定されているのです」

 その規定とは次のものだ。

『8.02 審判員の裁定 
(a) 打球がフェアかファウルか、投球がストライクかボールか、あるいは走者がアウトかセーフかという裁定に限らず、審判員の判断に基づく裁定は最終のものであるから、プレーヤー、監督、コーチまたは控えのプレーヤーが、その裁定に対して、異議を唱えることは許されない。
【原注】 ボール、ストライクの判定について異議を唱えるためにプレーヤーが守備位置または塁を離れたり、監督またはコーチがベンチまたはコーチスボックスを離れることは許されない。もし、宣告に異議を唱えるために本塁に向かってスタートすれば、警告が発せられる。警告にもかかわらず本塁に近づけば、試合から除かれる。』
 つまり、佐々木は「宣告に異議を唱えるために本塁に向かってスタート」したため、即座に警告が発せられたのである。

「球審に歩み寄った、それが事実」

 しかし、「佐々木にそんな強い抗議の意図はなかった」と多くのファンは感じている。私もそう思う。だが、山崎氏が補足説明をしてくれた。
「主審に抗議したのか、松川捕手に何か確認したかったのか、どちらでも関係ありません。球審に歩み寄った、それが事実です。投手の気持ちは見えませんから、行動で判断するしかありません。もし捕手に話したいことがあれば、先にタイムを取って捕手を呼ぶ。それが正しい手順です」

 なるほど。それが野球規則の定めなのだ。そう聞けば納得する以外にない。が、だとすれば、別の疑問が湧き上がる。私自身、中学、高校を通じて、指導者たちに一度たりとも、「投げた後、ホームベースに近づいたら抗議と受け取られるから、絶対近づくな」と教えられた経験はない。指導者として教えたこともない。つまり、厳然と規定されているこのルールが、ほとんど周知徹底されていない。それなのに、佐々木朗希に対して、突然、厳格に適用されたのだ。

 この出来事で野球関係者、野球ファンが気づくべきは、白井球審を非難し、佐々木朗希を擁護することでなく、本来の野球ルールはそうだと理解し、少年時代から、投手に徹底して「ホーム方向に歩みださない」習慣をつけさせることだ。

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