価値観の変化に対応した地域のライフラインになる――細見研介(ファミリーマート代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】
これからのコンビニ
佐藤 その一環と思いますが、さまざまな店舗形態を模索されていますね。
細見 昨年来、実験を繰り返してきて、これはイケるというパターンがいくつか見えてきました。例えば無人決済店ですね。天井などに設置した数十台のカメラと、棚に付いている重量センサーで、お客様が何を手に取ったのかを把握し、レジで電子決済する。第1号店は東京駅の日本橋口に直結しているサピアタワー内の店舗で、そのあと、西武鉄道さんの中井駅や東武鉄道さんの岩槻駅の店舗にも導入しました。
佐藤 郵便局の中に作った店舗もありますね。
細見 郵便局さんとのフルスペックのコンビニは、先に他社が作っています。私どもは郵便局さんの一画の狭小スペースを利用した無人の店舗なんですね。これは主に過疎地での展開を考えています。
佐藤 それはいいですね。
細見 郵便局さんは過疎地でもサービスを提供され続けています。でもみなさん、買い物に苦労されているわけです。そこで一緒にサービスができないかと考え、棚を置かせていただくことにしました。まだ2店舗しかありませんが、来局される方々にとても喜んでいただいていますので、これから拡大していきたいと思っています。
佐藤 コンビニは地方に行くと「世界への窓」なんですよね。
細見 郵便局さんだけでなく、過疎地にインフラを抱えている企業は結構あります。例えば、プロパンガスの会社です。面白いのは、ガスメーターに通信機をつけて、ネットワークを作ろうとしています。プロパン業者さんは保守点検をされますから、すぐに駆けつけられる仕組みが必要なんですね。
佐藤 過疎地にデジタルネットワークが誕生しつつある。
細見 こうした動きと何か協業して、地域に役立つことができないか考えているところです。
佐藤 それは面白いことができそうですね。
細見 またロボット化も進めています。飲料の補充をロボットがやる。飲料置き場は冷蔵庫なので、気温がだいたい5度くらいなんですね。そこで重たいものを出し入れするのは大変な作業ですから、自動化したかった。これもだいたいめどが立ちました。
佐藤 これからコンビニに行くたびに何か変化がありそうですね。
細見 現在、進めているのはデジタルサイネージ(電子表示板)の設置です。コロナを契機に飛躍的に伸びているのがeコマース(電子商取引)です。コンビニとして、それとどう接点を持つかが課題でした。その一つの試みとして、各店舗にデジタルサイネージの大きなディスプレーを置き、商品の広告を流します。お店にeコマースのショーケースみたいな役割を持たせる。言ってみれば、お店をメディアにする。いま設置店が千店以上になりました。
佐藤 店舗の中で広告が流れるわけですから、その場での売り上げにも貢献するでしょうし、広告料も入るわけですね。
細見 ええ。広告の効果は如実に出ます。それにコンビニの面白いところは、デジタル技術と組み合わせて、300店だけ、500店だけと限定的に広告を流せることです。そうすると、地域密着で細分化したプロモーションが可能になるんですね。つまり非常にフレキシブルな販促活動ができるようになります。
佐藤 なるほど、地域分散型の展開ができる。私は沖縄・名護の大学で教えていますが、現地のファミリーマートは地域性が豊かで、沖縄の食品が多いんですよ。
細見 細分化するやり方を応用すれば、例えば沖縄の特産物を東京の目黒区だけで売る、みたいなこともできるでしょうね。
佐藤 それは面白い店舗になりそうです。
細見 それからもう一つ、金融サービスも拡充していきます。私どものチェーンだけでも年間の売り上げが約3兆円、税金などの収納代行分も約3兆円あるんです。つまり年に6兆円がファミリーマートを行き来していることになる。これをベースにして、生活に密着した形のサービスを作っていきたい。賢い家計のやりくりに使っていただけるようなサービスはできないか。そうした目線で取り組んでいこうと考えています。
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