アゾフスタリ製鉄所の封鎖は不可能 ロシア兵を恐怖の渦に巻き込む地下要塞の実態
製鉄所の包囲は不可能
今のところ、アゾフ大隊の関係者は髭を剃っていない。ということは、ロシア軍が化学兵器を使う可能性が低いと判断していることが浮かび上がる。
「地下に潜むウクライナ兵は、インターネット回線を通じ、全世界に向けて現状を発信することができます。もしロシア軍が化学兵器を使えば、リアルタイムで惨状が実況されるかもしれません。各国の世論は硬化する可能性が高く、さすがのロシアもそこまでの強攻策はとれないのでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)
そもそも製鉄所を《1匹のハエすら出られないように封鎖》することなどできるはずがない。何しろ《東京ドーム235個分の敷地》なのだ。
「製鉄所は大量の水を必要とします。工業用水とはいえ、実は飲用できるというケースは珍しくありません。“兵糧攻め”が成功するかは未知数です。しかも広大な敷地を厳重に警備するのは不可能ですから、こっそり地上に出たウクライナ兵が何らかの方法で物資を調達するということは、決して無理な話ではないでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)
犬死にと神格化の差
たとえロシア軍がマリウポリを制圧したとしても、それだけで“勝利”を意味しない。
「戦術的には勝利しても、戦略的に敗北する、ということは珍しくはありません。具体例としては、アメリカ軍が侵攻したアフガニスタンやイラクが挙げられます。両国とも戦術的には勝利し、領土内の駐留に成功しました。しかし、その後はテロやゲリラ戦で苦しめられることになります。結局、アメリカ軍は駐留費用が巨額に達し、撤退を余儀なくされました」(同・軍事ジャーナリスト)
ロシア軍の兵士にとって、今回の“特別軍事作戦”で戦死すれば、犬死という思いは強いだろう。
だが、ウクライナ軍は違う。戦死した兵士は、祖国を守ろうとした英雄になる。
「特にアゾフ大隊の場合、死んだ隊員は神格化されることが保証されたようなものです。最後まで士気は極めて旺盛でしょう。マウリポリは自国の領土ですから、何年経っても奪還に意欲を燃やすでしょう。一方、ロシア軍にとってマリウポリは外国であり、制圧を維持するためにはコストを必要とします。士気の維持も難しいものがあるのは言うまでもありません」(同・軍事ジャーナリスト)
ロシア軍の不利は変わらず
ベトナム戦争やアフガニスタン・イラク戦争は泥沼化し、アメリカ国内では厭戦気分が高まった。ウクライナ侵攻でも同じ展開になれば、ロシアがどれだけ世論統制していたとしても、完全に押さえつけることは不可能だろう。
「戦争が長引けば長引くほど、ロシア軍には不利であり、ウクライナ軍には有利になります。今後もロシア軍がウクライナ軍に手を焼くという構図は、簡単には変わらないと思います」(同・軍事ジャーナリスト)
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